MBD 導入における 10 の注意点 – クリティカルな 3 次元寸法や公差を省略しない(Part2)

MBD に対する反対意見の中でも、製造部門、特にサプライヤーからよく聞かれるのが、重要な寸法と公差が省かれることへの不満です。MBD を「無責任で怠慢」だと拒絶している機械工場さえあります。客先から 3 次元モデルだけが送付され、2 次元図面、3 次元の寸法、公差は提供されなかったといいます。客先としては、機械オペレーターが SOLIDWORKS か 3D PDF でモデルを直接測定できると考えたのでしょう。

ところが実際には、機能上不可欠な寸法と公差が明記されていないと、加工や検査に支障をきたすという工場はまだ多いのです。その場合、必要な製造情報を追加、表示するためだけに、現場の方で 3 次元モデルや 3D PDF を基に 2 次元図面を作成しなければなりません。サプライヤーにとっては MBD など百害あって一利なし、「客先は 2 次元図面を作成しなくてよいのだから、時間の節約になるのだろうが、結局は負担をこちらに押し付けただけ」と考えるのも当然です。

さらに悪いことに、サプライヤー自身が 2 次元図面を作成し、それが客先の 3 次元の設計意図と一致しなかった場合、責任転嫁に発展してしまいます。「モデルを測定しなかったそっちが悪い!」「そっちが寸法と公差を指定しなかったせいだ!」こんな論争が法廷に持ち込まれる事例は珍しくありません。ここは善し悪しではなく、現実的に考えてみましょう。工場もビジネスですから、製造が容易になる設計解釈に傾くでしょうし、製品全体の機能や品質という面では最善の解釈ではないかもしれません。だからこそ、利害の対立を避けるには、ルールをはっきりさせておくことが何よりも重要になります。その手段の一つが、製品製造情報(PMI)の明示的なコールアウトを作成することなのです。PMI を記載するメリットと解消されうる問題について、一つずつ掘り下げていきましょう。

1. 設計チームは、製品の使用事例、設計意図、主要フィーチャー、技術要件などを一番よく理解しています。したがって、そうした情報を曖昧にせず、正確に伝える役割も負うべきです。重要なコールアウトを省いた場合、別の解釈の余地が生じてしまい、誤解や対立の原因になります。さらに、製造部門やサプライヤーが要件を解釈する場合、製造しやすさが最優先されるため、製品品質が最大化されるとは限りません。

2. 設計チームで PMI を記載すれば、コミュニケーションのきっかけになるのはもちろん、設計や製造性をレビュー、チェック、改善するチャンスも得られます。PMI を省くということは、このチャンスを逃すということです。

3. 設計に含まれている製造情報は、機能上不可欠なものだけでも相当な量になります。重要な情報はモデル内に埋もれてしまうのです。後工程の担当者が毎回手作業で測定し、重要なものだけ抽出しようとすれば、時間と手間がかかるだけでなく、設計要件や製造エラーを見落とすリスクも高くなります。そうなれば、品質の低下、サイクルタイムの長期化、コストの増大といった影響が出るでしょう。例えばサプライヤーの見積もりには、このオペレーションの経費が上乗せされるはずです。主なコールアウトを作成しておけば、状況は大きく変わります。それぞれの要件が読み取りやすくなる上に、対応漏れを防ぐ完璧なチェックリストとして活用することもできます。

4. モデル形状に寸法は記載するけれど、公差は必ずしも記載しないという設計チームもあるかと思います。公差が欠けていると、当然ですが、読み違いにつながります。運が良ければ、現場がドキュメントにないルールを持っているかもしれません。ただし、それに従って加工や検査を進めたとしても、実際の公差要件はまったく確認できない状態です。一般公差でうまくいくケースもありますが、それより厳しい要件は取りこぼされることになり、手戻りや廃棄のリスクが高くなります。もし運が悪ければ、現場が一般公差を把握しておらず、完全に行き詰まるか、独断で進めてしまうかもしれません。一方、寸法と公差をスケッチやフィーチャーに定義している設計チームもあると思います。同じコールアウトを 3 次元モデルにも表示してください。たったそれだけで、改めて図面を作成したり、手作業で検索を繰り返す必要がなくなるのです。

長くなりそうなので、ここでいったん止めましょう。次回は、この題材の後編です。上記 4 つ以外のメリットについて解説するほか、Military-Standard-31000A 規格が推奨する PMI スキーマと使用事例を紹介します。SOLIDWORKS MBD についての詳細は SOLIDWORKS MBD 製品ページをご確認ください。また、Twitter (@OboeWu)あるいは LinkedIn (OboeWu)でのディスカッションにもご参加ください。下記バナーをクリックしてさらに詳細なMBD情報もご覧ください。

【MBD導入関連ブログ】
MBD 導入における 10 の注意点 – 2D 図面をマスターとして頼らない
MBD 導入における 10 の注意点: サプライチェーンへの送付データを 3D PDF のみに統一しない
MBD 導入における 10 の注意点 – インフラストラクチャーを更新する
MBD 導入における 10 の注意点: Web 上の MBD を軽視しない
MBD 導入における 10 の注意点 – 1 つの製造ドキュメントで試験運用する
MBD 導入における 10 の注意点 – クリティカルな 3 次元寸法や公差を省略しない(Part1)

田口 博之

田口 博之

マーケティング部 プロダクトマーケティング担当