ものづくりの中心
日本の大手半導体装置メーカーが、大手モーター製造企業が、そして、グローバル企業が、ネットゼロ達成目標(*)を明確に掲げ、一部企業では、10年前倒しで目標達成を目指す、と明言してきた。それほど、気候変動への対応は、企業にとって喫緊の課題であり、もはや無視できない状況になっていることの現れだ。これらの企業は、気候変動が自社に様々なリスクをもたらすことは明らかであり、これらのリスクを事前に特定し、対策を講じることこそ事業の安定化に不可欠である、と、待ったなしの状況を判断したに違いない。また、環境問題への取り組みが、消費者や投資家からの信頼を高め、近い将来、取引を左右する大きな条件になる、と判断したとも言える。大手だから取り組めるのだろう、と言っている場合ではない。セットメーカーに部品を納品する中小企業こそ、納品する部品に対する環境問題への取り組みが問われることになる。大手企業の目標達成10年前倒しは、中小企業にとっては、5年いや3年で対応を迫られる課題だと認識すべきであろう。
一部大手企業では、傘下企業に対し、データ連携を義務化し、「みえる化」の推進を開始している。ご存じのエンジニアも多いかと思うが、Catena-Xと呼ばれる、欧州の自動車業界においてデータ共有できる企業間のネットワークを形成し、サプライチェーン全体におけるデータのエコシステムを実現するための取り組みもあれば、Ouranos Ecosystem(ウラノス・エコシステム)と呼ばれる、経済産業省が、企業や業界、国境をまたぐ横断的なデータ連携・システム連携の実現を目指す取組として推奨する基盤もある。企業は、早急にいずれのデータ連携を採用すべき、と問われているわけではなく、いつでも、データ連携できる情報を提示できるように備えておくことが求められているのだと思う。テスラ社は、自社の温室効果ガス(GHG)の排出量 スコープ1およびスコープ2情報を開示し、スコープ3について、GHG排出量が桁違いに大きい、ことを発表。GHG排出量削減に向け、サプライチェーンをけん引し、削減を目指すと公表している。この波は、少なからず、日本にも及び、大手企業から中小企業へと影響は伝播するに違いない。環境問題に取り組んでいます、という「ポーズ」から、積極的に取り組まなければならない「課題」へと変化していることに敏感になるべき時である。
高度成長期を経て経済大国の仲間入りを果たした日本の製造業が、世界でも存在感を示し始めた頃、技術者に、設計や熱、流体、生産システム、材料といった技術情報を届けるべく、創刊されたのが「日経メカニカル」という隔週刊誌だったそうだ。日経は、その後も、「日経***」と呼ばれる姉妹誌を生み出しつつ、市場変化の状況をとらえて2004年「日経ものづくり」を創刊。20年が経過した。「ものづくり」している企業にとって、「日経ものづくり」は必読本だった。開発設計から生産技術、デジタル技術活用まで幅広い情報を提供してきてくれた。手前ミソではあるが、この20年間、ものづくりの中心には、いつも3D CADがあったように思う。今こそ、設計から製造に留まらず、物流に至るまで3D CADデータを共有して使い倒すべきである。3D CADを自分の手として自由自在に動かす設計者。設計者こそ環境問題に対し本領を発揮させる時である。
(*) 温室効果ガスの排出量を実質的にゼロにするという目標