三種の神器は健在か?
歴代天皇に伝わる『三種の神器』になぞらえた呼称は、新しい生活、消費習慣を表すマスコミ主導のキャッチコピーであり、豊かさや憧れの象徴でもある、って何のこと?とおっしゃる読者のほうが既に多いだろう。(引用:ウィキペディア『三種の神器』より)
1950年代後半、三種の神器は、「テレビ」、「洗濯機」と「冷蔵庫」。そして、時々電気釜と、掃除機、であったらしい。その後時代と共に、「三種」が様々に変化していくのであるが、読者の皆様にとっては、この時代、「神器」とは何になるのだろう。昨年来、パンデミックの影響もあり、最も売れたアイテムは、テレワーク需要による無線LANルーター、Webカメラ、そしてパソコンらしい。自宅で時間を過ごすことが多くなった人々は、「調理家電」にも目をつけていた。巣ごもり需要で、空気清浄器、加湿器やエアコンが何十年ぶりかの高出荷額を記録した、という記事が目に飛び込んでくる。製造業の景気も悪くはないのか、と思う一方で、あんなに欲しかった一つ前の型番製品があっという間に片隅に展示されているのを見ると、戦場なのだなぁ、と実感する。
一消費者として、今でも神器の1つだと思っている「洗濯機」の話をしてみたい。
洗濯物を投入してスイッチをONすると、コントロールパネルの表示がおかしい。いつものそれとは異なる。電源のON、OFFによって、この問題は一時的には解消。急場を凌いだものの、完全に壊れるのは時間の問題のようだった。インターネットで探せば、修理用のキットが販売されていないわけではない。ただ、素人が故障した場所を特定できて、かつ、正しいキットを取り寄せて、修理ができるのか、という疑問にぶちあたる。簡単に直せそうだ、と思ったところで、修理できなければ、カミナリが落ちるのは目に見えている。買い替えが最も安全策。善は急げと家電量販店へ。メインにずらりと並ぶドラム式全自動洗濯機。価格を見て目が飛び出る。業務用電気器具か、と思うほどのお値段。あれもこれものAI機能。そして、とにかく大きい。洗濯量は、1.5Kg/1人ぐらいらしいので、4人家族で6kgのところが、なんと11Kgや12Kg洗濯できる機種が主流。SKD(凄そうだが、高価でデカイ)とでも叫びたいところである。
小さくすることが得意だった日本のものづくりの路線が変ったのか、お客様のニーズが変化したのか。
洗濯機の進化は、常に振動との闘いだったと記憶している。回転による遠心力は、振動を生み、騒音の原因となる。この振動の課題を克服してきたのは、液体バランサ(洗濯物の偏り状況に応じて、全体の偏心を解消する(バランスを保つ)機能)や、ドラムを支えるダンパーの開発だったと推測する。家電メーカーにとっては、CAEを駆使した最新兵器に違いない。完全自動で全ての洗濯プロセスをこなすのだから、山ほどセンサーが搭載されているのだろう。タッチパネルのメニューの量は、壊れた洗濯機の2倍ほどある。が、ちょっと待て。AI機能満載の12Kgも洗える洗濯機は、おひとり様や老夫婦に最適なのか。振動する洗濯機を2階に設置せざるを得ない住宅事情に、80Kg越えの荷物を配送してくれる労働力は考えられているのだろうか。