User Interview :「菅生の坂から名取の風へ」自作電気自動車競技大会エコランレースの火は絶やさない!

SOLIDWORKSユーザーInterviewの4回目は、仙台高等専門学校・大泉哲哉名誉教授と、電気自動車エコラン競技大会を主催する「特定非営利活動法人次世代モビリティエコラン協会」理事長の久保敬さんにお話を伺います。1995年から26年開催が続いている「電気自動車エコラン競技大会 in SUGO」は、東北地区を中心とした地域の高校・高専・大学・社会人チームが、大会指定のバッテリーで自作電気自動車を統一のバッテリーで走らせる2時間耐久レースです。地域の学生たちへ手を動かして”実際のものづくり“の熱意を伝えていくことに熱い想いをお持ちのお二人にご登場いただきます。

特定非営利活動法人次世代モビリティエコラン協会」理事長の久保敬さん(左)
同副理事長でもある仙台高等技術専門学校・大泉哲哉名誉教授(右)
*本インタビュー取材は7月にオンラインで実施

電気自動車エコラン競技大会/ World Electric Vehicle Challenge

エコラン大会は例年夏に行われます。1995年、宮城県柴田郡村田町菅生のスポーツランドSUGOの本コースで初開催され、以降毎年開催されてきました。SUGOは、国際自動車連盟公認のオンロードサーキットで最終コーナーからホームストレートにかけて高低差69.83m斜度10%の登り勾配が特徴の本格オートレース場。コースの全長は3,621m。山間部の地形を活かしたアップダウンに富んだコース。他ではありえないようなトラブルが起こる事もありSUGOには魔物が住むと表現される難コース。昨年2020年は年始からのコロナ禍の状況下、中止せざるを得ないとの判断で開催が見送られました。2年連続開催見送りではエコラン競技用電気自動車設計製作による実践的技術教育が途絶えてしまうという危機感から自動車エコラン競技大会/World Electric Vehicle Challenge in SUGOは、スポーツランドSUGOから名取サイクルスポーツセンターに会場変更し今年の10月10日、一年越しで開催することになりました。

東北隋一の難コースで行われるエコラン

エントリー車両は一台づつ車検を受ける。ハードなコースで車両を安全に走らせるためには重要な過程(2018年競技大会車検の様子)

電気自動車エコラン競技大会 in SUGOは、本格レーシングコースで手作りの電気自動車を走らせる競技大会です。自動車産業や省エネ技術を担うの人材の発掘と育成を目的に次世代環境型自動車技術を体験できる大会として継続されており、現在は日本設計工学会東北支部、計測自動制御学会東北支部、仙台高等専門学校の3団体が共催団体。出場チームは、走行エネルギー源として主催者から公称270Wh(2016年から公称300Wh)の鉛バッテリー(産業用蓄電池)の支給を受けます。自転車のタイヤを利用するチームあり、様々な工夫を凝らした電気自動車で菅生の坂に挑んできました。*注1

エコラン競技では車両の設計だけでなく、レースマネジメントも重要。「好成績を出している仙台工業高校チームと、ピットが隣同士だった時、顧問の教師が、無線で頻繁にバッテリー電圧・電流をドライバーに訊ね、それに応じた走行速度を伝え、レースマネジメントをしていました」「社会人のアイシンAWチームは、菅生の坂に合わせ最適なアクセルワークを実現する自動走行プログラムで2010年に2時間で29周、平均時速55km約100kmを走行する記録を達成。2016年からバッテリー性能は向上したがこの記録はまだ誰も超えていません。」(大泉教授)

小中学生、高専、大学、社会人まで多様な参加層

小中学生の手作り車両もSOLIDWORKSを使用して3次元設計を行う。今年は流体解析も使いこなしてしまうのだろうか?!
小5から中2までの仙台高専ジュニアドクター育成塾に参加している子どもたちも、本大会にエントリー。高校生、高専生に交じって自作自動車を走らせる姿は頼もしい(2019年大会)

今夏、各チームとも車両設計方針の大きな変更を迫られています。今年の会場、宮城県名取市のサイクリングコースは平坦で高低差がなく難所の坂もない。気にしなければならないのは坂ではなく海風なのです。主催者が支給するバッテリーもこれまでと異なりパワー1/4程度のスクーター用バッテリー2個だけ。(公称72Wh)「平均わずか30W程度で、人を乗せ走行しなければなりません。空気抵抗の低減は必須です。これまで車両設計にSOLIDWORKSを使用し、最軽量車両を求めて構造解析を行うことはあっても、車両周りの空気の流れまで解析することはまれでした。今年は、Flow Simulationで車両が受ける風の影響をしっかり解析したい。(大泉教授)「学生時代は、SOLIDWORKSで車両開発設計をしていました。学生チーム向けにはライセンス提供を受けていますが(*注2)社会人チームからも一時的なライセンス提供の要望も出ています。」(久保理事長)

モノコック車両の設計
設計したカウル周りのFlowSimulationによる解析結果(2006)

大会には例年30数チームがエントリーします。例年宮城県の後援も得て、地域のものづくり支援のプログラムの一環として位置づけられてきました。2019年は高校生等ジュニアチームが15チーム、大学が7チーム、社会人チーム6チームが参加、同じ企業グループから複数エントリーする常連社会人チームもあります。しかし昨年から今年のコロナ禍は、競技大会を支えてきた協賛企業やOBやエンジニア、ボランティア達の環境を激変させ、本大会を長く支えてきた企業・メンバーには、コロナ禍による環境変化の荒波に揉まれ、例年通りの支援ができない企業も出てきており、今年エコランは大きな岐路を迎えています。10月、名取の海風に吹かれる海沿のサイクリングロードで、新たな電気自動車レースのストーリーがはじまろうとしています。

宮城発!未来の子どもたちのためのEV車両開発

国内では2050年のカーボンニュートラル宣言、2035年には市販自動車の電動化100%が宣言されており、この先国内の電気自動車普及はさらに加速の様相を呈しています。今年のエコランへ出場する「仙台高専ジュニアドクター育成塾」に参加している小・中学生達は、この7月17-18日「学都仙台サイエンスディ」(オンライン開催)で発表を行いました。車両のカウルあり・なしの実験・研究の結果、カウルありで走行空気抵抗の少ない車両を開発する結論を得ています。そして仙台高専が長年研究を継続してきた電気自動車の高効率駆動回路の研究「トルク差ゼロ制御」を活用した車両で、競技大会に出場する予定です。小・中学生達のプレゼンの素晴らしさもさることならば、10月の大会での彼らの車両とその走行もとても楽しみです。Blog読者のみなさまもぜひエコラン競技を応援いただけたらと思います。

2019年大会の全員集合写真。今年初開催の名取会場は将来的にはビギナー向け大会としての位置づけも期待される。状況が整えば再び難坂SUGOで競技会再開を目指している。コロナ禍が収束し、SDGsのための学生たちの活動が再び盛んになることを期待したい。

 

【イベント概要】
電気自動車エコラン競技大会
日時:2021年10月10日
会場:名取サイクルスポーツセンター

■参考動画:未来の子供達のために超小型EVを開発!~空気抵抗の低減~

■参考動画:未来の子供達のために超小型EVを開発!~トルク差0制御システムの実装~

*注1…大会初期の頃はコースを逆方向走行でレース実施。コース順方向の最終地点勾配10%の長い上り坂を登れる電気自動車の車両がなかったのだ。バッテリーの性能が大幅向上し2003年からは順方向でレースを行えるようになった。
*注2…ソリッドワークス・ジャパンは、本エコラン競技大会を支援しています。同大会に参加する希望学生チームにはSOLIDWORKSの学生向けライセンスを提供しています。

 

来月も、PDM/解析/新製品開発をテーマにSOLIDWORKSユーザーさまにInterviewを行います。お楽しみに!

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