春 – 設計者の視点
2019年の桜の予想開花日は、全国的に平年より早い予想らしい。久しぶりに晴れた東京の空と、「エンジョイしようぜ!新生活」だらけの広告電車で、一気に春を感じた次第だ。山の手線11両編成のE235系全車両に広告掲載すれば、数千万の広告費が請求される。概ね無償で情報拡散を図るSNS方式とは大きな違いではある。が、新生活を始めるにあたって、なにかと世話をやいてくれるのは親の世代。早朝から電車に揺られて通勤するその親の世代に、電車広告は大きな威力を発揮するのだろう。さらに親世代用には「信用」を確信するためのWebサイトは欠かせない。案の定、良くできたサイトができあがっていた。大手家電メーカーサイトにはなかなか掲載されないタイプの情報につられ、つい「購入」ボタンを押してしまったばかりに、ポップアップ広告がうるさいのは「イマドキサイト」と諦めるしかないか。
【新参と老舗 目線の違い】
三洋電機との合弁会社を日本に設立させたハイアール。パナソニックが三洋電機を買収した際、白物家電部門だけはハイアールに引き取られたという歴史がある。そのハイアールの十八番は冷蔵庫なのだ。中国で起業した企業が当初よりグローバル戦略を掲げ、「冷蔵庫」で地位を獲得し、日本の技術を手に入れた。日本が、細やかなデザイン、様々な場面に対応できるたくさんの機能、を持った製品を造り出していることを知り尽くした上で、「大胆な製品を世界へ発信する」という戦略がハイアールの売りらしい。と聞いた上で、どこか昭和らしさを感じるデザインを見ると、見た目ではなく「誰に向けた使いやすさを提供するか」を徹底的に追及していることの表れかと理解できる。
【問われる、設計者の視線】
モノの価値だけで新たな価値を生み出すことができなくなる時代。この設立して30年の企業に、100年の歴史を作ってきた日本の家電メーカーはどう立ち向かえるのか。いや、業種を問わず多くの製造業がどう戦うのか。課題に取り組むために「戦略室」「推進プロジェクトチーム」なる「箱」を作る企業もあれば、最近では、シェア・オフィスとか、ノーディスタンス・オフィスなど、発想を進化させるために職場環境を変える企業もでてきた。もともと企業とは顧客の要求を適えるために、1人ではできないことを複数の人たちが持つ能力や活力、総力で実現する努力をする集合体であるはずだ。現代に名を遺す武将が戦いに挑んでいた時代は、アイデアの共有手段や伝達手段が無かった。少数の精鋭なメンバーだけでしかアイデアは出せなかったし、戦法が簡単でなければ兵士を指揮できなかっただろう。アイデアがこんなにも便利にタイムリに、いつでも、どこからでも配信でき、キャッチできる時代だ。「箱」に固執することなく遠い空の向こうから、いや、あなたの隣に座っている人から、発想を引き出し、カタチにしていくのは、設計者であるあなただからこそできるイノベーションである。桜が待ち遠しい。