MBD 導入における 10 の注意点: Web 上の MBD を軽視しない
モデルベース定義(MBD)の成功の一因と言えば 3D PDF です。Adobe Reader はネット接続できるコンピュータの 95% に無償でインストールされており、3D PDF を手軽に表示することができます。今はオンラインの時代です。もう一段の飛躍を遂げて、3 次元コンテンツをウェブブラウザのページ上で直接取り出せるとしたら、Adobe Reader も不要だとしたら、素晴らしいと思いませんか。CAD データのアップロードとダウンロードにとどまらず、ブラウザ上で MBD データをインタラクティブに使えるようになるのです。また、設計のリビジョンが進むたびに、データを必要とする一人ひとりに大量の CAD ファイルや 3D PDF ファイルを送るのは、あまり好ましいとは言えません。そこで、ウェブポータルで 3 次元コンテンツが更新されると誰でも最新バージョンを入手できる、そんなポータルがほしいと思いませんか。
正直なところ、現在はまだその域に達していません。3D PDF をオフラインのドキュメントと捉えた上で、MBD をオンライン化することやウェブを MBD 対応にすることを「ウェブ上の MBD」と呼んでいます。この時代、「オンライン」の重要性は説明するまでもないでしょう。私自身、これから SOLIDWORKS WORLD 2016 に向かうため、ボストンのローガン空港にいるのですが、なぜか空港の WIFI に接続できず、何となく物足りない感覚を味わっています。私が重度の依存症であることは認めますが、そういう人は少なくないはずです。
オフラインのコンピュータでは大活躍の MBD も、残念ながら、オンラインでの役割はまだそれほど大きくありません。ホストインフラの高額さ、インターネット速度の遅さ、ActiveX コントロールの不便さなど、さまざまな障壁が立ちはだかっています。一方、さまざまな新技術のおかげで、あと一歩のところに来ていることも事実です。そうした技術的な要因の中でも、WebGL や X3D などのウェブグラフィックスは特に貢献しています。その最大のメリットは、インストールをまったく必要としないところです。ブラウザ上のリンクをクリックするだけで、モデル、寸法、公差、メタプロパティ、パーツツリー、保存済みビューなど、充実した MBD コンテンツを簡単に利用することができます。
下図はアメリカの国立標準技術研究所(NIST)が提供するプロトタイプです。7 ページまで移動してモデルをクリックすると、パン、ズーム、回転の操作ができます。あるいは、黒の 0.5 という輪郭公差をクリックすると、ダイアログがポップアップ表示され、情報を確認することができます。つまり、関連付けが可能でインタラクティブなコンテンツだということです(情報元: 『NIST, X3D – 3D Web Content』、Sandy Ressler 氏、2014 年)。ちなみに、この画像は携帯のスクリーンショットなのですが、お気づきになったでしょうか。デスクトップ、ノート PC、モバイル端末を問わず、ブラウザさえあればコンテンツを表示できるので、専用アプリケーションの提供や最新版への更新などに煩わされることもありません。
9 ページに移動してみると、下図のようなスクーターが表示されます。ここでは、モデルツリーによる検索、メタプロパティ、オンラインチャット、コメント、部品の表示・非表示、面切り、分解図、保存済みビューなど、さらに多様な操作が可能です。
ウェブグラフィックスのもう一つのメリットは、規制の問題を回避できるところです。一部の企業や組織では、CAD データを社内のファイアウォールの外に持ち出すことが許されていません。ウェブグラフィックスで動くオンライン MBD の場合、外部の客先にはグラフィックデータが送られるだけで、CAD データが流出するわけではありません。また、一切の CAD データセットをロードする必要がないのはもちろん、すべてのグラフィックではなく、特定の視点のグラフィックだけをロードするため、通信速度が速いという副次的なメリットもあります。
誤解しないでいただきたいのですが、オンラインと言っても、パブリックドメインでオープンアクセスにするという意味ではありません。アメリカ海軍が典型的な例です。データの公開などしそうにないとお思いでしょうが、実はイントラネットでウェブベースの MBD データを共有していました。海軍施設技術部隊エンジニアリングサービスセンターの Alex Viana 氏によれば、その試験が始まったのは 1996 年です。水中建設工兵隊の実地訓練の助けとして、ウェブベースの 3 次元部品モデルを活用できるかどうかを検証することが目的でした。結果は大成功。取り組みは 3 次元仮想モデルによる港湾施設の構築へと発展していきました。現在は、仮想的な 3 次元の港湾施設モデルの構築プロセスが確立されており、紙図面、既存の 2 次元 CAD ファイル、その他の地理空間データから、建設後の海軍施設を生成できるようになっています(情報元: 『Navy Enterprise Web-Based 3D Model Visualization: Supporting Collaboration among the Naval Systems Commands (仮訳: 海軍全体におけるウェブベース 3 次元モデルの可視化: 海軍システム軍団の連携支援)』、Alex Viana 氏、2014 年)。下図は、海軍のイントラネット上にある港湾管理ツールの画面です。
ここまで、ウェブ上の MBD について手短にご紹介しました。今後もさらに掘り下げていきたいと思います。また、今回で本シリーズの 2 つ目の要素である「プロセス」は終了です。次回は第 3 章の「製品」に移り、「1 つか 2 つの製造ドキュメントで運用開始する」について解説します。
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