ドリルを買いに来た人が欲しいのは「穴」
「〇〇社、マスク生産に参入」、「マスク資材設備へ新たな投資、●●社」「××社、フェイスシールドの生産開始」
などなど、ここにきて、製造業の勢いが嬉しい。いつの時代も、底力を発揮し、社会を活気づけてくれるのは製造業だ。医療従事者の皆様への感謝の気持ちと同様、製造業の皆様にも深く感謝の意を表したい。
このエンジニアリングニュースを皆さんが読んでいる頃には、「マスクバブル」もすっかり崩壊し、コンビニにもマスクの並ぶいつもの光景に戻っていて欲しい。そして、目の前の利益だけを追求したのではない、真のマスク、が、将来も活躍することを期待したい。
“バブル”が弾けた1990年代など、もう30年も前の昔のこと。リーマンショックの2008年でさえ、ひと昔以上前の話になる。経済状況などあまり肌で感じることのなかった学生時代を過ぎ、社会人となり、今現在、働き盛りのエンジニアにとっては、それまで低迷していた経済が何をきっかけに上を向き始めたのかについて考えたことがあるだろうか。お恥ずかしい話だが、筆者も同様、そんなことを考えている余裕など無く、その時、その時を働いていることで精一杯だった。インターネットの時代は良い。過去の記録は色々なところに散らばっていて、なるほどと思える事象が目に入ってくる。過去の事象を考察することで、新しいコトを発見できることがまことに愉快である。
1990年代、製造業の落ち込みはひどく、復活までに約10年を費やした。この間、低迷する製造業ではあったが、生産資源(資本や労働力)がどれだけ効率よく生産活動に用いられているかを示す全要素生産性(TFP)は、常に、安定しており、かつ、2000年代になると非製造業と比べ上昇が顕著になる。不景気、不景気と言われながら、コスト削減、品質向上、生産性向上、を常に追い求め、確実に成し遂げてきたのも、製造業であるという証だ。
20年以上も前の経済低迷時代にも、「イノベーション活動の推進」は叫ばれていた。今や、先進諸国のGDPに占める第3次産業、つまりサービス産業の比率は既に70%を有に超えている。残念なことに、製造業など第2次産業は、GDPの30%弱しか貢献していないのが現状。縁の下を支えているのに、数字だけでみる世界は厳しい。が、「製品」を製造する製造業が、同時にサービスを付加価値として「ソリューション」を提供するようになったら、弁慶に薙刀、鬼に金棒にはならないのか。お客様に提供するソリューションは、お客様の問題を解決するための本質的な理解と、それを解決するために必要な要素の整理、ではないだろうか。ドリルを買いにきた人に、「今日はどんなドリルをお探しですか」と聞くのは、お客様を理解していない滑稽な話、というわけだ。ドリルを買いに来た人が欲しいのは、ドリルではなく「穴」であるらしい。