技術は盗めと言うけれど・・
技術伝承とは、特定の従業員が会得している熟練技術やノウハウを後継者に伝えて引き継ぐことである。製造業においては、複雑な「技術」を誰かに継承するのが難しいとされている。しかし、安定的にこの技術を継承できなければ、技術を継続することが難しくなることぐらいは誰にでもわかる。社内には、マニュアルと呼ばれるものはたくさん転がっているのに、暗黙知の部分が記載されていないので、「そこじゃぁないんだよ」という残念で表面的なマニュアルのなんと多いことか。
マニュアルと言えば、米国のハンバーガー屋さんのそれが有名である。ここのマニュアルは、ほとんどのスタッフがアルバイトという企業の成り立ちを考えた「全員の平均点を上げる」ためのものらしい。放任主義の場合、自ら行動できる人は、あっという間に合格点を取ってしまうが、そうでない人は育たないか辞めてしまうだろう。全員を平均点まで上げておくことで、誰が辞めても一定の技術を持った人を絶えず確保しておくことが必要だという考え方である。また、米国の有名なテーマパークである、Dランドのマニュアルも最強らしい。『ディズニーの最強マニュアル』を読んだことはないが、Dランドの仕組み(マニュアル)は、どんな企業にも活用できるものだそうだ。
Dランドのポイントは、働いている全てのキャストが、企業理念を共通認識として理解していること。どこに向かって進んでいくのか(目的)と、何をすべきなのか(手段)、が明確なので、スタッフが「なぜ」に遭遇しても作業(業務)の根本にたどりつき、納得して作業を遂行できるらしい。このDランドのマニュアルも、「100%のキャストを平均点以上にする」ために存在するという。もともと、マニュアル(Manual)とは、何か(業務)を確実に実行するために参照するもの、という意味がある。つまり「平均点を取るために必ず読んで」と伝えて読んでもらうことで、十分にその目的を果たす。逆に「表面的なマニュアル」などと言われる筋合いは無いというものなのだ。
職人気質、日本の文化を絵に描いたような職業は多い。一人前になるまでに10年はかかると言われてきた左官工事の世界に、なにやら変化が起きているらしい。未経験者でも3年で習得できる独自の育成プログラムを開発する企業が、職人の定着率を改善し、確実な技術継承に結び付けている。「見て覚えろ、技術は盗め」は、口で言うことではなく、「動画教材」としてひたすら「見させる」ことに変った。215年の老舗の和菓子屋さんにおける職人の「マイスター制度」は、暗黙知のマニュアル化と言っても良いだろう。左官職は、将来、「アーチスト」と呼ばれるかもしれないし、和菓子業が、「バイオ企業」を名乗るかもしれない。設計者も職人。自社の基準(スタンダード)を追求しつつ、平均点の上にある自社技術がなんであるかを、非常時に備え、見える化、形式知しておくべきか。