要求性能 – 設計者の視点
駅ホームに直結したエレベーターの扉の前で、「急いで急いで」と誰かを手招きで促している、海外観光客らしい少年。少年の兄、と母親と思われる人は、停車している電車にもう乗っている。次の瞬間、手招きした少年と一緒に電車に飛び込んできたのは、「電動カート」だった。日本人が見慣れている車椅子のカタチではなかった。車椅子を乗車させる光景は良くみかけるようになった。駅係員さんが電車とホームの間にスロープをかけ、安全に配慮しながらコミュニケーションを図り、車掌さんと降車駅を確認しているのが一般的だ。しかし、この観光客らしい人達は、電気の力を借りて、スロープも使わず、一気に加速して乗車してきた。車掌さんは、彼らの降車駅も知らないだろう。電車の幅をほぼ占領するほどの大きなカート。スーツケースを持った乗客の降車を妨げる。もちろん、回転できるスペースなどない。降車駅で開くドアが、乗車したドア側だったら、バックして降車するつもりなのだろうか。などと考えているうちに、自分の降車駅。日本だから、何とかなるだろうと、多少後ろ髪をひかれながら、電車を後にした。
【その時代にみる、製品の“要求性能”】
話しは変って、ドイツ自動車大手のフォルクスワーゲンが、この7月に、ビートルの生産を終了した。ナチス・ドイツの国民車構想に基づいて、ヒトラーが提示した「国民車」の条件が具現化された車だったそうだ。自動車の持つ一般的な要求性能のうち、動力性能、居住性、燃費性能、排出適合性、耐久性などが網羅されている。一方で、安全性については、全く言及されていない。この時代には、既に、自動車における「安全性」は、ある程度担保されたものであったのか、それとも、設計者を信頼したのかは不明である。
【“要求性能”の変化】
車椅子の開発は、世界各国で、発展の歴史がユニークで面白い。日本では、最初に療養施設で使用されたことから、失われた歩行機能の代償機器のイメージが強く、安全性が重視され、居住性やデザイン性は後回しの要求性能だったと考えられる。しかし、高齢化が進んだ現代、生活道具の一つとして気楽に、恰好よく使用できる製品が望まれるようになってきた、と言っても良い。
180度簡単に方向を変えるなら、新天地「豊洲」市場でも活躍しているターレーの技術を転用してはどうか。そもそも、歩行を助けるのなら、6つに割れた腹筋を作る器具より、大腿四頭筋の筋トレ用器具を開発すべきだろう。既に一般的な歩行アシスト器具を電動アシストタイプにするほうが開発は早い。いっそ、電動アシスト器具を活用した高齢者向け健康促進スポーツを提案することこそ社会貢献だ。など、一般人が考えるアイデアなどはたかがしれているし、既に市場に出ているはずである。要求性能を細分化してシンプルに、かつ時代に適応させること、既存のテクノロジを信用して活用、はたまた進化させて信頼することこそ、エンジニアの醍醐味。「イノベーション」というのかもしれない。
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