特集:3Dプリンタ造形成功のコツ 集中講座 – 第4回:プリント・後処理工程編


主に製造業における「試作」を念頭に3Dプリント成功率アップのコツについてお伝えする本連載。前回は、3Dプリントの3つの作業工程(1)形状作成(2)プリント(3)後処理のうち、(1)形状作成のコツをご紹介しました。今回は工程の後半部分である(2)プリントと(3)後処理についてお話しさせていただきます。

プリント前に目的を再確認
前回 お話ししたとおり、3Dプリントによる試作の代表的な使い方としては、形やデザインの評価(形状・意匠性評価)、動きなど機械構造の評価(機構評価)組み立て性の評価の3つがあります。プリントするときも、この目的をしっかりと意識しておくことが重要となります。例えばプリントの充てん率が足りず、表面の仕上がりがでこぼこになってしまった場合。デザインの評価が目的ならこれは失敗です。でもこれが機構の評価であれば、動きに影響が出ない部分が多少粗くなっても問題ないでしょう。

それではさっそくプリントに入りましょう。今回は私が作成した星形エンジンの部品を例に、プリントから仕上げまで具体的な工程を見ていきます。今回プリントしたのは中心部のこちらの部品です。

プリント前の確認ポイント
はじめに、プリンタが適切に準備できているかを確認します。ここでミスがあると、その後のプリント時間が無駄になってしまうので、面倒でも毎回しっかり確認しておきましょう。フィラメントに詰まりがないか、プラットフォームの温度は十分か、そしてプラットフォームシートがきちんと貼れているかといった部分が確認ポイントになります。

プリントの成功率を上げるプラットフォームシートの設置方法
ここで、3Mの3Dプリンタープラットフォームシート(以下プラットフォームシート)を例に、貼り方のコツをご紹介します。このプラットフォームシートは吸着性が高く個人的におすすめの製品です。
プラットフォーム上にホコリやフィラメントなどが残っていると段差が生じてしまうので、きれいに取り除いておきます。また貼り付け時には、スキージを用意しておくと作業がしやすくなります。

それではプラットフォームシートの貼り付け方法です。
① まずプラットフォームシート裏側の台紙をはがします。このとき、剥離紙の端の部分だけを先にはがすのがポイントです。先にこの部分をしっかりプラットフォームに貼り付けます。
② 次に、貼り付けた側から台紙をはがし、スキージでシートをプラットフォームに押しつけるように貼っていきます。
③ 端まで貼り終わったら、スキージで残った空気を押し出します。このとき、貼り付けた方向に沿って、一方向に押し出すのがコツです。
④ 最後にプラットフォームシート表面の透明なフィルムをはがせば完成です。

一度貼ったプラットフォームシートは、凹凸が生じたり、吸着力が落ちてくるまで、繰り返し使うことができます。

試作目的にあわせたプリント設定を
プリントの速度の設定は、仕上げの精度や成功率に大きな影響を与えます。何のためのプリントなのか、プリントの目的によってプリント速度を調節しましょう。
デザイン評価のためのプリントや機構評価の主要な部品など、仕上げに精度が求められる部品は、速度を落としてプリントするのがオススメです。後処理の手間を考えると、トータルではゆっくりプリントした方が短時間で済むことが多いためです。
精度を保ちながら時間短縮したい場合は、1、2層目だけをゆっくりプリントするという方法もあります。土台となる層の精度は全体に大きく影響するため、この部分をゆっくりプリントするだけでも大きな効果があります。

冷ますときは焦らずに
プリントが終わったら、取り出しです。このとき、十分熱が冷めてから取り出すことが大切です。プリント直後は造形物もプラットフォームも熱く火傷しやすいだけでなく、フィラメントが十分に固まりきっておらず歪みの原因になるためです。早く冷まそうと風を当てて急速に冷やすのも禁物です。フィラメントが部分的に収縮して段差ができてしまうこともあります。寒い時期は室温にも注意しましょう。暖かい部屋で、徐々に冷ましていくのが理想的です。
ただし今回作ったような小さな造形物の場合、プリントしている最中にもどんどん冷めていくので、そこまで冷却に気を遣う必要はありません。プラットフォームシートを敷いていれば、造形物をプラットフォームからはがすのも簡単。ヘラなどを差し込んで少し力を入れれば、簡単にはがれます。はがした後の底面もツルツルで、後処理の手間が省けます。

※今回のモデルはPLAフィラメントで作成

複雑な造形物をプリントするときは、その前に一度シンプルなモデルをテストプリントしてみるといいでしょう。プリンタの動きや設定を事前に確認しておくことで、失敗の原因をあらかじめ排除できます。

後処理に必要な道具
プリント後の後処理では、ニッパー、金属ヤスリ、サンドペーパーといった道具が活躍します。ラフトやサポート材などはニッパーで大まかに切り取っていき、金属ヤスリで磨いて滑らかにしていきます。

サンドペーパーによる後処理
サンドペーパーは、平面、曲面のどちらも磨けるのが特徴。プリント目的にもよりますが、試作段階の後処理では400番手と800番手程度の2種類があればいいでしょう。サンドペーパーはまず目の粗いもので大まかに削り、その後細かいもので仕上げていくのが鉄則です。

なお、耐水性のあるサンドペーパーであれば、水を付けて磨くことで摩擦熱の影響を受けにくく、目詰まりも減らすことができます。
今回試用したサンドペーパーは3M社製です。1工程目は大きな粒でガリガリ削るイメージで、「3M™ ラッピングフィルム 263X 40M」を使用。ポリエステルフィルム上に砥粒(酸化アルミニウム砥粒)がコーティングされています。

仕上げはポリッシングペーパーで
2工程目は「3M™ ウェットオアドライ™ ポリッシングペーパー 281Q 9M」で、柔軟性のある不織布の基材上に砥粒がコーティングされているもので、柔軟性があるので、造形物の凹凸などにも追従しやすいです。
試作用途ではなく、より完成物にイメージを近づけたいなら、上記1工程目の「263X 40M」の後に「3M™ ウェットオアドライ™ ポリッシングペーパー 481Q 30M」を、その後、上記の「281Q 9M」の仕上げに、「3M™ ウェットオアドライ™ ポリッシングペーパー 281Q 2M」を使用し、全4工程で仕上げると、なめらかな仕上がりになります。
(いずれも海外輸入品のため入手が難しい場合がございます。製品詳細は3M 米国サイトhttps://goo.gl/Ew0i3J でご確認いただけます)

後処理も目的を意識して
後処理の範囲も、目的に応じて決めましょう。デザイン評価の場合、滑らかに仕上げるために3〜4種類のサンドペーパーを使うケースもあるでしょう。一方、機構評価の場合は、部品同士の摩擦面を滑らかに仕上げることが重要になります。先に紹介したプラットフォームシートを使えば底面はツルツルになるので、摩擦面が底面になるように工夫することで、後処理の手間が省けます。

今回作成した星形エンジンの例では、ちょうど底面が摩擦面でした。このためほとんど後処理をすることなく、滑らかにエンジンが回転してくれました。

失敗を恐れず何度もプリントを
最後にお伝えしたいのは、とにかくプリントしてみることです。失敗を恐れずにどんどんプリントしてみてください。プリントするたびに学びがあり、経験が蓄積していきます。そのノウハウを貯めていくことが、最終的には成功率アップの近道になる。私は自分の経験を振り返ったり、たくさんのお客様のお話しを伺ったりして、そう感じています。
今後技術が進み、3Dプリンタが製造業にとって大きな役割を果たす時代が必ず来るでしょう。そのときに、今の経験が大きな財産になるはずです。ぜひ皆さんも積極的に3Dプリンタを使い、いろいろなアイデアを試してみてください。

4回にわたって3Dプリント成功率アップのコツをお届けしてきましたが、皆さまの一助となれば幸いです。

注目される3Dプリントの未来に関して、下記ホワイトペーパーでさらに詳しく紹介しています。参考にぜひご覧ください!

今回のプリントに使用したプラットフォームシートはこちら。吸着力が優れており、プリントの成功率を大幅に高めることができる吉田のオススメシートです。ぜひお試しください。

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【3Dプリンタ造形成功のコツ 集中講座】
第1回: 基礎編 3Dプリント成功率アップのコツ
第2回: SOLIDWORKS WORLD JAPAN 2016 イベントレポート
第3回: 形状作成編 3Dプリンタによる試作のポイントとは?

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