製造業の大工
日本の戸建て住宅は約9割が木造で建てられており、木造住宅は圧倒的なシェアを誇っているそうだ。この木造住宅の工法と聞いて、軸組工法と枠組工法を思い浮かべる人は多いだろう。軸組工法とは、柱、梁、筋交いを木で組み合わせる工法、枠組工法とは、角材と合板を繋ぎ合わせたパネルを組み合わせる工法である。工法の違いは、エンジニアなら誰しも理解できるところであり、強度を線(軸)で受けるか、面(枠)で受けるか、と言うことではあるが、一般人がこの2つのオプションのどちらを選択するか、と迫られたところで、そう簡単に回答できるとは思えない。いや、工法なんてハウスメーカーによって決まっているのだから、どんな工法だろうと強度は保証されているのでわざわざ知識として知っている必要もない、のかもしれない。しかし、大工ともなれば、いずれの工法にも対応できる腕は必要となる。
2インチ×4インチ寸法の木材を指す「ツーバイフォー」に代表される枠組工法は、北米の木造住宅の約9割に使用されていると言われている。規格化された統一サイズのパネルを作り、パネル6面で作った箱を基準に、縦に、横に、繋げるという、合理的な工法だ。大工さんの経験や技術によらず、ほぼ同品質の住宅ができあがる。規格化された材料を使うので、現場での作業量は削減され、短い工期で家を建てることができる。一方、日本の従来工法でもある軸組工法は、大工さんの腕が命。手作業は、どうしても職人さんという個人に異存して品質にバラつきが出る。近年、職人さんの技のばらつきを減らすため、プレカット工法と呼ばれる、現場ではなく工場で設計図に基づいて、機械により 正確な長さ、幅、高さの形状に予め木材を加工する方法が主流となった。プレカット工法によって住宅を作るケースは、近年、新築家屋の94%にまで浸透しているという。このプレカット工法が浸透することによって、皮肉にも、大工さんの腕の「差」を表現できる機会が減っただけでなく、腕の差で支払われるべき給与にもやりがいを感じられない、と若手大工の職離れが後を絶たないらしい。1980年にピークだった大工人口は、2020年にはその3分の1に減り、2045年には、10万人を下回ると予想されている。大工さんがいないとなると、この先、夢はマイホーム、など違う意味で非現実的な社会になってしまうのかもしれないということを受け止めねばなるまい。
こんな職人の現場を変えようとする人達はいる。家を一軒建てるには、大工仕事以外に、電気工事、水道工事など本職ではない技工士が必要である。が、家一軒、発注された大工さんは電気屋さんでも水道屋さんでもないので、その仕事は本職の電気屋さん、水道屋さんに頼まざるを得なかった。そして、その作業料は、大工さんが電気屋さんに、水道屋さんに支払わなければならない。だったら、大工さんが自ら、電気工事や水道工事に関わる知識を身に付けることで大工さん自身に給与が支払われるようにしたら良い、と考えた企業がある。同社は、若手や新人を教育するために教育施設まで作った。これは、ベテラン大工が仕事を教えながら若手の育成を行うと、結局、仕事がはかどらない。しっかり育成するためには、時間と労力を惜しまないことだと悟ったからである。さらに、同社は、男女、年齢の上下、事務職/技術職を問わず、360度評価制度を採り入れ、人間力の評価も行う。こうすることで、同社で育成された多能工職人は、誰からも好かれ、あの人に家を作って欲しい、と言われる唯一無二の職人に成長する。機械設計、金型設計、電気設計、3Dプリンターで試作品を作る、大量生産最適化を図る。製造業にも、マルチエンジニアの育成に積極的な企業*1がある。大企業にはまねできない小さい組織の中にいるからこそ腕のイイ設計者になりたい。
*1 このストーリーは、オンデマンド(期間限定) で視聴可能です。