努力の価値

生まれたときからインターネットやスマートフォンに何の躊躇もなく、当たり前にふれながら育った「デジタルネイティブ」の人達が続々と入社してくる時代に突入した。「価値観」が違う。初代iPhoneが発売されたのが2007年だから、デジタルネイティブの世代が生まれ育った環境には既に発達したデジタルツールもIT技術も、極々、身近に存在していた。たくさんの情報の中から信頼がおける情報、または、自分にとって有益だと思われる情報を選ぶことに慣れている。一方、この世代は海外旅行に興味が無いらしい。インターネット検索すれば、簡単に海外の景色を観、音を感じることができる世の中だ。治安の悪さなど不利益だと思う海外事情を知れば知るほど、何時間もかけて海外旅行する意欲が弱まるのも当然なのかもしれない。価値観が違えば、「行動」も違うのは当たり前だと思って対応するしかない。多様性を重視する傾向もある世代らしいので、逆に、こっちとの違いを受け止め対応してくれることを望むばかりだ。

 

ここ数年の物価上昇に伴い、コスパ(費用対効果)意識は益々高まりを見せている。地方へ移住してオンラインやリモートワークをフル活用するタイパ(時間対効果)族も少なくない。リーマンショック、東日本大震災、COVID-19パンデミック。不安定な時代を過ごしてきただけに、デジタルネイティブ世代でなくとも、現実主義的な価値観を持たざるを得ない。遥かかなたの高い理想を掲げて、コツコツと計画的に努力し、理想の実現に一歩でも近づけるようにしていくことは、今を努力すればイイじゃん、という価値観を持っている人には理解し難いだろう。ただ、日本のエンジニアリングにおいては、何十年にも渡り継続して技術の向上と効率的な工程管理に対し絶え間ない努力をしてきた結果として、他国が追随できない製品品質を作り出し、結果として安全で耐久性に優れたコスパの高い製品を市場に投入してきたという実績を生んだ。この実績はたった1日で成し得ることではない。またその高かった理想こそが現実を生み出したことこそ、「日本の誇り」になっていることを忘れてはならない。

 

今年6月。世界で17万人を救った 奇跡の実話 とサブタイトルされた 「ディア・ファミリー」(東宝株式会社)が公開された。娘の病気を治すために町工場の父が医療機器の開発に挑戦する物語で、愛知県春日井市のある企業「株式会社東海メディカルプロダクツ」(https://www.tokaimedpro.co.jp/) 筒井会長*とその家族がモデルである。東海メディカルプロダクツ(以下株式会社略)は、1981年設立。高度な技術を要し、国内では生産が無理と言われていたIABPバルーンカテーテルの開発を日本で初めて成功に導いた。以降、冠動脈治療に使用されるPTCAバルーンカテーテル、透析治療に使用されるPTAバルーンカテーテル、肝臓治療に使用されるマイクロカテーテル、脳血管治療・大動脈治療に使用されるオクリュージョンバルーンカテーテルなど全身領域へと製品開発範囲を広げていく。同社のホームページには、「一人でも多くの生命を救いたい」、というメッセージが掲げられている。同社の創業の精神(「なぜその事業を始めたのか」という事業開始の目的意識)であるこの言葉は、創業者筒井氏の夢であり、理想であり、現実にすること、なのだと感じる。そこには、コスパもタイパも、無論、世代もない。ただただ、無限の努力をすること。その先に、それを応援してくれる人が現れる、のだそうだ。そんな筒井氏の声を聴いてみたい。世代を超えて、努力の価値を再確認できるはずだから。※開発製品は同社のホームページより引用

* 2024年11月15日(金)に開催される 3DEXPERIENCE WORLD JAPAN 2024 にて 東海メディカルプロダクツ 筒井 宣政会長の特別講演を視聴いただけます。

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