3DEXPERIENCE WORLD JAPAN 2024 招聘講演を振り返る

2024年の3DEXPERIENCE WORLD JAPAN 2024は、11月15日(金)、大勢のお客様を迎え無事終了致しました。寒いと予想されている冬の気配を感じない暖かさの中でしたが、ご来場いただきました皆様に心から御礼申し上げます。

 

今年、3DEXPERIENCE WORLD JAPAN 2024のテーマは、「IMAGINE~継承と革新の30年」。この30年間を支えてきてくださったSOLIDWORKSコミュニティの皆様が、継承を革新に変えるヒントを得、共に交わり、アイデアを高めて頂ける場として、招聘講演、お客様事例セッション、ユーザー会セッション、SOLIDWORKSテクニカルセッションなど、多数のヒントの切り口をご用意し、SOLIDWORKSの30年の歴史を一気に振り返る赤いパネルと共にお客様をお迎えさせていただきました。

 

ここでは、招聘講演をいただいた株式会社東海メディカルプロダクツ会長(SOLIDWORKS ユーザー様) 筒井氏のご講演内容を振り返りご紹介させていただきたいと思います。

 

今年6月。世界で17万人を救った 奇跡の実話 とサブタイトルされた 「ディア・ファミリー」(東宝株式会社)が公開されました。娘の病気を治すために町工場の父が医療機器の開発に挑戦する物語で、ここでご紹介する「東海メディカルプロダクツ」(https://www.tokaimedpro.co.jp/) 筒井会長とその家族がモデルになっています。SOLIDWORKS社が設立されたのは、1993年。東海メディカルプロダクツは、その12年前、1981年設立されました。わずか、9歳で余命宣告された次女のために、世の中にたった1つしかない人口心臓を作る、と宣言し、一心不乱に勉強し、その研究開発に全身全霊を傾けたのが筒井氏です。当時のご苦労やご心痛、周囲の状況などは、映画で語られていますので、ここでは、僭越ながら、経済学部を卒業した開発研究者としての筒井ストーリーにフォーカスさせていただきたいと思います。

 

筒井氏には、お父様の創立した「東海高分子化学」の抱えた莫大な借金を返済する、という第一の壁が立ちはだかりました。2代目あるあるストーリーかもしれません。経営学を学んだ筒井氏の当時の発想は、「一発逆転」。この莫大な借金をコツコツ返済していたら72年以上かかってしまい、自分はよぼよぼ、孫にまで借金が残ってしまうという計算でした。「一発逆転」発想でアンテナを張っていると、迷いこんできたのが「アフリカの女性向けに髪を縛るヒモを作ったら売れるぞ」という雲をつかむような話。でも、筒井氏にとっては、お父様の創立した会社は、縄跳びの縄などを作っていた会社でもあったので「高分子でヒモを作る」というごく自然な発想があり、「売れたら大儲け」という経営的な思いとマッチして、彼を突き動かしたのだと想像します。

英会話教室に通うお金もなく、英語を話せなかった筒井氏は、地元のホテルに足を運び、外国人客に話しかけることで、実践的英会話を学びます。売れるか売れないかわからない製品を現地で売り込むのは、筒井氏本人。必死で学んだ英語を携えて、いざナイジェリアへ。単身で乗り込んだナイジェリアでは、現地の代理人は全く話も聞いてくれず、ほぼ商談にはなりませんでした。そんな時、代理人の祖母が亡くなり、町中をあげての一週間も続く葬式が始まることを告げられます。これでまた商談ができなくなる、と思うのも無理はありません。一方で、石油が出て国際通貨を扱うナイジェリアから商売を始めないと事業が成立しない、と覚悟を決め「自分も葬式に出る」と伝えると、初めて現地代理人はニコッと笑い、葬式に参加することになりました。葬式というよりお祭りに近いイベントで、炎天下の中、太鼓に合わせて踊ると、喉は渇くしお腹もすき、我慢できずに周りの人が飲んでいたドリンクをいただくと、なんと、どぶろくのような、お酒ではありませんか。そうやって現地人の中に飛び込んで仲間になったことで一気に距離が縮まり、商談も大きく前進することになりました。人間誰しもそうですが、何かに必死になっている人を助けずにはいられないのでしょう。「必死さ」とは万国共通、無言でも伝わる人間の表情なのかもしれません。筒井氏がナイジェリアに持ち込んだ「ヒモ」は、西アフリカ10か国への販売が決まり、一大ファッションにもなったそうです。言うまでもありません、72年間かかる見込みだった借金は、7年あまりで完済したのでした。

 

筒井氏にとっての第二の壁が、まさしく、人口心臓の開発です。第一の壁を乗り越えようとしている時、筒井家には次女が誕生します。次女は、複数の先天性心疾患を同時に持っていたため、これらを一度で治すには神業のような手術をするしかなく、当時の医療技術では治すことができませんでした。そして「娘のためのたった1つの人口心臓を作りたい」という思いから、経済学部出身、医学知識ゼロの個人が、医療機器開発に挑戦したのです。

個人研究を進める中、アドバイスもあって公的資金を受けられるように会社組織として設立したのが、東海メディカルプロダクツです。そして、最初の公的資金援助を受けたのが 旧財団法人研究開発型企業育成センター(VEC)からの債務保証でした。ここで、筒井氏は、VECの審査員 本田総一郎氏と出会います。助成金を受ける側の筒井氏が、本田氏に問いかけます「あなたの合格判断基準は、何ですか?」 本田氏は、①その人が人に好かれているか ②意欲があるか ③良いパートナーを持っているか ④人の意見を聞く耳があるか です、と答えます。開発者でも、経営者でもある筒井氏がこの言葉に共感しないわけがありません。事業をリードしていくために必要な要素を持ち合わせている人間同士の必然の出会いだったのだと思わずにはいられません。

 

一方で、現実は残酷です。1頭の動物実験までに8年8億円。たった1つの人工心臓のために、動物実験を終えるまでにはその10倍の資金が必要だろうとわかり、筒井氏は立ちすくみます。そして、完成したところで需要があるのだろうか。研究開発者として、経営者として、心は葛藤します。何故なら、人口心臓の開発断念は、次女を救えないことであり、「死」を受け入れることを意味するからです。

の葛藤の中で、「一発逆転」の発想はあったのでしょうか? 苦しい状況であっても、「自分の技術で何とか誰かを救えないのか」という開発者魂は筒井氏の心の底でフツフツとしていたのだと思います。だからこそ、張っていたアンテナは反応し、“IABPバルーンカテーテル”の開発に必死になり、開発期間たった1年半で国産初の製品を世に送り出すことができたのだと思います。

 

現在、東海メディカルプロダクツは、三大疾病と呼ばれる、脳梗塞、ガン、心筋梗塞、の治療のために、IABPバルーンカテーテルはもちろん、血流コントロールを必要とするバルーンガイドカテーテル、抗がん剤を効率良く投与するためのマイクロカテーテル、さらには、小児用のバルーンカテーテルを開発、製造しています。特に、小児用バルーンカテーテルについては、国内需要だけで製造していくことに若干の疑問があったようですが、東海メディカルプロダクツだけが製造できる安全、安心なカテーテルとして、国外からも多くの需要のある注目を浴びる製品になっています。ここにも、筒井氏ならではの、命を救おうとする開発者としての「必死さ」があり、さらに、需要と供給における経営者としてのバランス感覚の鋭さが光っているのを感じます。

 

最後に、経営者であり製品開発者である筒井氏から、日本の製造業に向けた提言がありました。

海外製の製品開発のプライオリティは、①利益 ②単価、効率 ③生産 ④製品 であり、製品は、常に下。だから品質が二の次になる、ということを実感する。それに対し、日本のものづくりは、①アイデア、考案者の思い ②組織、試作、検査 ③生産 ④利益。 つまり、利益がなくても製品に思いを込める。私は、日本的ものづくりが大好きだ。東海メディカルプロダクツは、製品の品質に妥協しない。使えないものは捨てる。だから失敗しない製品だけが使用され、使用で失敗が生じない。1個1個に信頼がおける製品を作り続ける。それが、信頼を生む。日本でしかできない、製品を、品質を作ることが大切、と。

 

まさに、単なる「製品」ではなく失敗しない体験を提供できるからこそ、東海メディカルプロダクツの製品は、限りなく市場で受け入れられるのだろうと思います。利益を生み出すことこそ、企業の優先順位ではありますが、利益を生み出す製品の中には、開発者、設計者の「必死の努力」こそが、欠かすことのできない要素であることも再認識させていただきました。

SOLIDWORKSがこれからも、たゆまぬ進化を続けていくことが、ユーザーの皆様と皆様の先にいるお客様の革新につながる。これこそ、私達のミッションであることを心に刻みたいと思います。来年もまたお客様の笑顔にお会いできることを楽しみにしています。

 

 

 

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