MBD 導入における 10 の注意点 – 躊躇しない (Part 1)
前回のブログでは MBD をトップダウンで推進することが重要であると紹介しました。
次は当然、MBD にはどのような具体的なメリットがあるのか、どうすれば上層部のサポートを得られるのか、MBD にはどのような具体的なメリットがあるのか、どのように反対意見に対処するのか、といった疑問が浮かぶでしょう。全 2 回の「躊躇しない」(Part 1、Part 2)のブログでは、人々の意識改革という観点から疑問に答えていこうと思います。
「MBD 導入における 10 のポイント」ブログで述べたように、MBD は理にかなった考え方であり、SOLIDWORKS ユーザーの 58% は製品製造情報(寸法、公差、データム、部品表、表面仕上げ、注記、溶接記号、関連メタデータなどの PMI)を 3 次元モデルに直接定義することを検討しています。とは言え、200 年続いてきた現行の 2 次元図面ツールから切り替えるとなれば懸念もあります。
そうした懸念に向き合う前に、まず覚えておいてください。
躊躇することはタダではありません。
それにまつわる機会費用が大きな損失につながる可能性もあるのです。
例えば、機械工場が客先から受けている質問の一つに、「今後の契約で 2 次元図面の代わりとする場合、どの 3D PMI フォーマットなら読み取れるか」というものがあります。すでに 3D PDF ドキュメントを頻繁に受け取っている現場もあります。サプライヤーの中には、Military-Standard-31000A (MBD のスキーマや要件を定めた 2013 年制定のアメリカ軍用規格)に準拠しておらず、契約が打ち切りになった例すらあります。
その一方で、競合戦略として MBD を確立し、サプライチェーン内の存在感を高めている企業もあります。図 1 のとおり、SOLIDWORKS ユーザーによる 3D PMI 定義の導入率は、2009 年の 1.5% から 2015 年には 20% へと大幅に飛躍しています。つまり、ジェフリー・ムーアの技術普及曲線において、MBD がアーリーアダプターからアーリーマジョリティへのキャズムを超え(図 1)、多数派の技術になりつつあるという意味です。事実、電子情報技術産業協会(JEITA、JIS 日本工業規格)の管理団体であり、ASME (アメリカ機械学会)に相当)の視察団は、2014 年にヨーロッパとアメリカを訪問し、各種メーカーや DS SOLIDWORKS Corporation で最新の開発状況を確認しました。目下、MBD の JIS が策定されているところです。こうした急速な成長傾向と機会拡大の中で、果たして躊躇している余裕があるでしょうか。
図 1: 寸法と公差の 3D 定義を採用していますか? (情報元: SOLIDWORKS 顧客ベース調査、2009 年(n=700)および 2015 年(n=524))
さて、ここからは MBD に対する一般的な反対意見を見ていきましょう。
MBD は本当に時間を節約できるのか
多くの企業から次のような質問が上がっています: 2 次元図面を省略できたとしても、3D PMI は定義しなければならない。時間の節約にならないのではないか?
まずは PMI 定義にとどまらない、製品ライフサイクル全体の観点で考えてみましょう。
MBD の大きなメリットとして、明確なセマンティック 3D PMI により、下流の製造工程で生産性を大幅に改善できる点が挙げられます。
表 1 はボーイングとトヨタにおける導入初期の結果です。より最近では、ロールスロイスが 2014 年に MBD プログラムを実施し、次のような結果をまとめました。セマンティック PMI により、まず、製品定義を検査や加工時に機械で解釈できるようになり、ナレッジや設計意図の共有も促進されました。次に、下流のサプライヤーでは、製造、検査などのシステムやプロセスにデータを再利用できるようになります。その結果、加工ソフトウェアにデータを再入力する時間が短縮されるだけでなく、情報の重複、人間の解釈エラー、手戻り(モデルおよび部品)、廃棄(部品)などによる時間の無駄も削減されました。(情報元: 『Technical Data Package (TDP) for the Digital Enterprise(仮訳: デジタル企業向け技術情報パッケージ)』、ロールロイス社、2014 年)。
表 1: ボーイングとトヨタにおけるモデルベース導入後の削減結果(情報元: Model Based Enterprise (仮訳: モデルベース企業)、Catalyst Connection、2010 年)
こうした個別の事例に加えて、2015 年 5 月には Lifecycle Insights が独自の調査を行い、大衆市場メーカーの実績の差異をまとめました。技術ドキュメントの作成、確認、修正に費やす週当たりの平均時間を調査したところ、3 次元注釈付きモデルを導入した企業に比べ、2 次元図面への依存が強い企業では平均時間が 6.6 時間も多いことが分かりました。
図 2:技術ドキュメントに関する実績の差異(情報元: Lifecycle Insights、2015 年、n=575)
さらに、アメリカ陸軍の調査によれば、最近の製品ライフサイクルは以前より大幅に延びています。例えば、B52 爆撃機の寿命は 94 年です。そのライフサイクルの長さから、コストの 65~80% は配置後の運用やサポートといった維持管理にかかることになります(情報元: 『Reuse of Model Based Definition Data to Increase Army Efficiency and Reduce Lifecycle Costs (仮訳: モデルベース定義データの再利用による陸軍の効率化とライフサイクルコストの削減)』、『Technical Data Package Specification for 3D MBD and MIL-STD-31000 Overview (仮訳: 3D MBD および MIL-STD-31000 のための技術データパッケージ仕様)』、Paul Huang 氏、2010 年)。
ライフサイクルがこれほど長くなると、2 次元図面と 3 次元設計の同期は失われやすくなりますし、紙のコピーは書類管理コスト、摩耗、不鮮明さといった問題が悪化します。ところが、MBD では 3 次元のデジタルモデルに PMI を取り込むので、管理、メンテナンス、アップグレード、検索は格段に簡単です。
図 3: ライフサイクルコストの 65~80% が維持管理で発生
PMI 定義のみに着目してみても、モデル自体にフィーチャーやスケッチの寸法と公差が含まれていると、作り直すまでもなく即座に表示、再利用できるため(図 4 の黒色太字部分)、MBD はやはり時間の節約につながります。また、SOLIDWORKS DimXpert には寸法を自動記入する機能があります。定義したいモデルタイプ、公差タイプ、データム、フィーチャー(あるいはモデル全体)を選択するだけで、インポートされたボディに対しても DimXpert によって自動的に PMI が追加されます(図 5)。
図 4: SOLIDWORKS MBD におけるスケッチの寸法と公差の再利用(黒色太字部分)
図 5: SOLIDWORKS MBD の Assembly における自動寸法記入
SOLIDWORKS MBD についての詳細は WEB製品ページをご確認ください。また、Twitter (@OboeWu)あるいは LinkedIn (OboeWu)でのディスカッションにもご参加ください。
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