特集:3Dプリンタ造形成功のコツ 集中講座 – 第1回:基礎編 3Dプリント成功率アップのコツ
急速に普及が進む3次元CADや3Dプリントを活用するためのセミナー講師をする機会があり、設計者、製造担当者やプロダクトデザイナー等、ものづくりの現場の方と直接お話しさせていただくことがあります。その中でよく聞くのが、印刷成功率が上がらない、はがすときに造形物が破損した、仕上げに手間がかかって困る、といった苦労話。長時間かかる造形物の場合に多いのが、退社前にプリンタをセットして朝出社してみたら失敗していた!というケース。設計変更や仕様の修正に日々迫られる現場でならではの声です。私自身、セミナー向けに、開催前に出力して取り出してみたら底面が反っていたり、充てん率が足りず形が崩れてしまっていたり、といった苦い経験があります。
こういった失敗を減らし、高精度で後処理の簡単な造形を成功させるためにはどうすればよいのか。世界で320万人が使う3次元CADメーカーとして得た、3Dプリントのノウハウを当ブログでは短期集中連載としてお伝えしていきます。
複数ある3Dプリンタの方式の中で、現在の主流は「FDM方式」
3Dプリンタの各種方式の中で最も普及しているのが、熱溶解積層方式(FDM)と呼ばれる方式です。これは、樹脂(フィラメント)を熱で溶かしてヘッドから出力し、それを何層にも重ねていくもの。量産品でも使用されるABS樹脂といった実際の完成品と同じ素材を使って造形でき強度が高いこと、比較的安価なPLA樹脂も使えてパーソナルニーズにも応えること、プリンタ本体の手入れの簡便さ、空調設備等の特別な設備も不要であることなどが支持されている理由でしょう。ここではFDM方式の3Dプリンタを主な対象として話を進めていきたいと思います。
「プリントして終わり」ではない、3Dプリントの作業工程
3Dプリントの作業工程は、大きく(1)形状作成、(2)プリント、(3)後処理に分けられます。それぞれの工程において留意すべきポイントを紹介しましょう。
1. 形状作成
形状作成とは、3次元CAD を使って3Dモデルデータを作成する工程です。大切なのはプリントの目的を明確にしておくこと。動作機構の確認だけなら、微細な箇所は省いてしまっても問題ないかもしれません。一方、デザインの評価、ユーザービリティの検証といった目的であれば、最終製品に近い仕上げが必要になります。目的に応じた形状や仕上げを意識して、不要な部分は大胆に省略する。それが3Dプリントを効率的に利用するコツです。
すでに3Dの設計データが手もとにある場合でも、高い精度を求めるのであれば、積層から生じるある程度の変形を考慮に入れて3Dプリンタで再現できる精度に落とし込む、といったチューニングをお勧めします。このような追加のモデリング作業は、SOLIDWORKSの3Dプリント機能を使えば、出力前にエラー原因となりうる形状の有無をCAD上で確認・修正し、3Dプリンタで使用できるデータを作成するので、短い時間で補正できます。SOLIDWORKS 2017の新機能「3D Interconnect」では、他社CADのネイティブ データも簡単に取り込んで、3Dプリント用データを作成することもできます。
2. プリント
プリントとは、実際の印刷(出力)の工程。3Dプリントは、紙への出力ほど容易ではなく、現場を悩ます失敗がたびたび起きます。樹脂やプラットフォームの温度、ヘッドとプラットフォームの距離、プリントの速度など、さまざまな要素が絡み合っているためです。そこで私がおすすめしたいコツのひとつは、プラットフォームに貼るシートです。一般的にハウツーなどではマスキングテープや耐熱ポリイミドテープなどが紹介されているケースもありますが、樹脂が食いつかず崩れたり反ったり、うまくはがせず研磨が必要だったり。やはり専用シートがおすすめです。次の章でご紹介しましょう。
3. 後処理
後処理とは、3Dプリンタで作成したモデルの表面を研磨したり、サポート材を除去したりするなど、最終的な形に仕上げる工程。この後処理には、結構時間がかかります。実際のプリントより後処理のほうに時間がかかった、なんていうことも少なくありません。
ABS樹脂を使った造形のポイントは?
彩色など表現領域や強度の高さを求めるとABS樹脂が採用されますが、プリントが難しい樹脂でもあります。ABS樹脂はPLA樹脂と比べて造形時に必要な温度が高く、その分冷えて固まるときに収縮しやすいためです。では、ABS樹脂を用いるプリントの成功のポイントは何でしょうか。
それは、1層目。3Dプリンタにおいて特に重要なのが、1層目です。FDM方式は、樹脂を積層して形を作る方式ですから、最初の層に失敗してしまうと、その後の造形も正確に出力できません。
ところが、1層目は最も失敗しやすいステップでもあります。熱で溶かされた樹脂は、冷えて固まるときに収縮します。そして温度が低いプラットフォームに直接出力する1層目は、特に収縮しやすいのです。そこで、1層目のフィラメントを台座にしっかりと吸着させ、収縮を抑える。これが成功率アップのポイントです。
1層目を制すればプリントは成功する?
通常、この問題を解消するためにプラットフォームへマスキングテープなどを貼ります。土台の金属板やガラスのツルツルの面と比べ、マスキングテープは素材表面の凹凸があるため樹脂が吸着しやすく収縮を抑えやすいためです。しかし、マスキングテープは塗装のマスキングで本来使用されるもの。3Dプリンタ用に開発されたものではないため、造形物が反ってしまったり、造形後にきれいにはがせないことも多く、そんなときは後処理で削り落とす必要があります。
私が使っているのは3M社製の3Dプリンター専用のプラットフォームシートです。1層目をしっかり吸着して収縮や反りを抑えながら、造形後はきれいに剥離でき、これを使うようになってから、プリントミスに悩まされなくなりました。しかもこのシートを使うと、プラットフォームからはがした後の底面も、鏡面のようにツルツルで滑らかです。これまでラフト(造形物の下に作る台のこと)を使っていたような造形も直接プラットフォームにプリントできるので、ラフトを取り外すなどの後処理の手間を大幅に減らすことができます。
※写真下は3M(スリーエム)社製の3Dプリンター専用プラットフォームシートを用いて撮影。
3Mの3Dプリンタープラットフォームシート(Amazon ランキング 3Dプリンタ・アクセサリ1位:2016.10.20 調べ)
注目される3Dプリントの未来に関して、下記ホワイトペーパーでさらに詳しく紹介しています。参考にぜひご覧ください!
【3Dプリンタ造形成功のコツ 集中講座】
第2回:SOLIDWORKS WORLD JAPAN 2016 イベントレポート
第3回:形状作成編 3Dプリンタによる試作のポイントとは?
第4回:プリント・後処理工程編