ローテクとハイテク
壊れちゃった?のか、トイレの自動開閉するはずのフタが開かない。これは、壊れたのではなく、酷暑のせいだ。きっと、気温と人の体温の差をセンサーが感知できないのでは、ともっともらしい知識で推測する。一方、感知できないのなら開かない、のが正しい動作だと思うのだが、中途半端に開いて止まる。やっぱり壊れた?のか。説明書を確認したが、これ、といった救済措置は見当たらない。Google先生に聞いてみたところ、我が家のトイレには、人感センサーが2つもついていることは確認できた。さらにもう1つ、着座を認識するセンサーもついているらしい。個室にいてもずいぶん見られているんだなぁ、と改めて実感。しかし、これだ、という答えは見つからなかった。結局、説明書を読みながら、入念なトイレ掃除をさせられた感じで、もう少し涼しくなるまでコールセンターへの電話は控えておくことになった。
今年、大阪万博が開催されているが、日本のトイレが和式から洋式に大きく変わったのは、図らずも、1970年に開催された大阪万博からといわれている。洋式トイレの便座は冷たい。古代ローマ時代から石のトイレを使ってきた西洋人には当たり前のことだった。が、日本人は、その冷たさを嫌い便座に靴下を履かせた。これが日本独特の「便座カバー」になり、暖房便座へと発展する。面白い話である。TOTOが本格的に温水洗浄便座の開発に乗り出したのは1978年だったそうだ。TOTOは、1960年代にウォシュレットの原型となった米国製の便器の国内販売を開始したのだが、まったく売れなかった。売れなかった理由は、便座の座面が小さい、温水になるまで時間がかかる、湯温が不安定、お湯の吐水角度が一定ではない、等々、お客様の声から明白だった。結果、自社で開発するしかない、という結論に達し、社員が実験台となって、さまざまな問題点を一つ一つ確認し、データを集めた。この貴重なデータが、標準数値となり、発売から40年以上経った現在のウォシュレットにも受け継がれているそうである。トイレというかなり「個人的な」感覚や感性で語られる製品について、データとして数値化し分析を行ってきたことに価値があり、差別化が図られてきたことがうかがえる。
市場をグローバル市場にまで広げるとなると、さらに、感覚や感性が多様化することは想像に難くない。大企業といえども、リソースは有限であり、あらゆる商品を開発、生産していくことには限界があろう。TOTOが開発する近年の温水洗浄便座機種では、約400部品が使用されているそうだ。グローバル市場における法規制に対応するために、販売を開始する全ての国に製造拠点を置くことができないなか、400部品を全て、各国の仕様に合わせなければならないのだろうか。TOTOは、数種類の部品を製造し、それらの部品の組み合わせで対応可能であることを見出す。さらに、複数の製品を1つのラインの中で製造する方式も模索した。ここで忘れてはならないのは、TOTOによる付加価値である。TOTOは、塩化物イオンが含まれている水道水を電気分解して、除菌成分(次亜塩素酸)を含む水を作ることで、薬品や洗剤を使わなくても、時間がたつともとの水に戻るという、環境に配慮した技術を取り入れている。大阪万博でも上下水道、下水道、電気を使用せずに利用可能な革新的なトイレが出展されているそうだ。市場の競合相手は、今戦っている同業者ではなく、持続可能な世界へ挑戦し続けている異業種企業である可能性は高い。




