脱プラ

2020年7月1日から日本全国で始まったレジ袋有料化。これは環境負荷を軽減し、プラスチックごみ問題に対処することを目的として導入された政策である。「意味がなかった」「不便だ」という批判的な声もあるようだが、具体的なデータと成果を見ると、この政策がもたらした結果は明らかだ。レジ袋有料化後の1年間で、全国のレジ袋の使用量は約30億枚減少。この削減量は、約20万トンのプラスチック廃棄物の削減に相当し、温室効果ガスの排出量を大幅に減少させる効果である。レジ袋有料化後、エコバッグの持参率も約70%増加したそうだ。誰もが日常的にエコバッグを持参しているのを見ると、使用する習慣が根付いたことが分かる。環境省の調査によると、海岸清掃活動で回収されるプラスチックごみのうち、レジ袋の割合が有料化後に減少したことも報告されており、確実に成果を上げているようである。

 

現代消費社会のあらゆる面において、プラスチックは必要不可欠なものであり、見渡せばプラスチック製品ばかりの世の中である。この先も成長は継続されると見込まれるが、一方で、原材料である石油価格の高騰や上述のようなプラスチック問題によるプラスチック離れなどを抱え、難しい局面に移りつつあることも事実。製造業では、航空機、自動車に代表されるように、金属材料をプラスチック材料に置き換えることで製品軽量化には最も有効であるだけに代替材料としての使用打ち切りは考えられない。注目を浴びるバイオプラスチックが、紫外線に弱い、湿気を吸収するなどの特性のために、石油由来のプラスチックに比べて格段と強度が低いとすれば、材料だけで代替することは不可能。などと悩んでいるうちに、Apple社は早々と「土に還るiPhoneケース」を世に送り出し、SDGsに取り組む企業イメージを市場に定着させる。何事も、早く着手すること、が大切な時代なのかもしれない。

 

2024年11月15日(金)、3DEXPERIENCE WORLD JAPAN 2024が開催された。この「脱プラ」問題に取り組んでいるキリンホールディングス㈱様には、お客様事例講演をいただいた。同社は、㈱ファンケルと共同で、ビール類製造時の副産物(仕込前モルト粉)を活用したパルプモールド製の化粧品梱包ボックスを新たに開発。そのストーリーをご発表いただいた。パルプモールドとは、紙の原料となる木質繊維(パルプ)を材料とし、これを水で溶かし、金型で成型し、乾燥してつくる紙器。これまでプラスチック素材等で製造されていた化粧品梱包ボックスを、このパルプモールドで代替できるのでは?と考えた彼らは、SOLIDWORKSを使い、見事にブランドの世界観を表現した立体的な曲線美とパッケージ機能を保ちながら、環境保護を視野にいれた商品開発に成功している。副産物であるモルト粉は、燃やすと二酸化炭素を発生してしまうため、ただ捨てられるだけのものらしい。これをパルプ繊維に混合させることで、実際には材料強度も低下する。化粧品の入った材質の異なるビン、チューブと素材の異なる梱包パッケージ。3次元立体構造(かん合リブ詳細設計)による強度増加を見込んでCAEをフル回転させ、美粧性と強度のトレードオフによって、数々の設計案を検討した。もちろん、輸送のための適正検査も実施。結果、環境に優しく、安全、安心な素材による立体設計が実現し、同社が採用するパッケージ素材として今後に期待できるものとなった。この製品は、2024年、日本包装技術協会主催 日本パッケージコンテストにて会長賞を受賞。日本感性工学会主催 かわいい感性デザインコンテスト において企画賞も受賞している。彼らの開発成功の裏には、「過去の実績に甘えるな」という上層からのプレッシャーがあったことは否めない。が、設計者自身が、「作って売れる時代の開発スタンスの終わり」を実感し、自らが売れるものを開発した、と称賛したい。

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