休眠と生長
1月から2月にかけて、平年よりかなり高めの気温で推移した関東地方では、桜の開花日が相当早まるだろうと予想されていた。が、蓋を開けてみれば、平年より5日も遅い開花となった。近年、葉桜で迎えることの多かった入学式は、満開の桜の下、ピカピカの新入生を迎えたことだろう。厚生労働省と文部科学省が、共同で調査し、2月に発表した令和6年3月大学等卒業予定者の就職内定率は、 91.6%(厚生労働省:https://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000184815_00045.html)。 4月1日、新しい環境に飛び込んだ新社会人も多かっただろうに、「入社した同日に即退社」「退職代行サービスの利用増加」など、新入社員離職のニュースが後を絶たない。買い手市場時代に就職先を選定した人間には、さぁこれから、という芽を自ら断つことの勇気に驚くと共に、売り手市場という環境に長らく染まっている世代に特有な行動のようにも感じる。製造業における令和5年12月の新規求人は、前年同月と比べて10.5%も減少している(厚生労働省)。有効求人倍率は、ここ数年1.0超え。製造業における「開発」業種では、4.0を超えるなど、1人の求職者を複数の企業で奪いあっているという計算だ(経済産業省:https://www.meti.go.jp/report/whitepaper/mono/2023/index.html)。 ここ数年、就職して1年以内で離職する短大等卒業生の割合は、18%。大学生卒で11.6%程度。全てが製造業に当てはまる話ではないにせよ、負のスパイラルから抜け出す手がかりはないものだろうか。
好きこそものの上手なれ。先人の言葉は奥深い。「自分の好きなことを仕事にしたい」と考える人は今も昔も変わることはあるまい。ただ自分の「好き」をどこまで分析しているかどうかは人それぞれ個人差がありそうだ。「車」が好き、と言ったところで、「運転」するのが好きなのか、「デザイン」が好きなのか「作ることが」好きなのか。職業で言えば、別の分野に区分され異なるスキルが求められる。さらに、特定のメーカーが好き、ということになると好きの「的」は小さくなるばかりだ。しかし、「好き」なのだから、とことん「好き」を追求しながら、楽しむという境地にたどり着けそうな気がする。楽しむという境地にたどり着くための時間として、1日、はあまりにも短すぎる。逆に、メーカーは問わないが「好き」という自己分析になったとしたら、自分の「好き」を実現できそうな企業を自らが分析して選択しなければならにことになる。つまり、別の分析が必要になってくるわけだ。自らが分析して選択した企業を入社してたった1日で退職してしまうのだとしたら、それもまた、何とも悲しいお話である。
冒頭においた桜の開花の話。開花を左右するのは、前年の秋からの気温の推移らしい。桜の花の元となる花芽は、前年の夏に作られ、休眠、生長という2つの過程を経て開花に至る。寒くて日も短い冬を生き抜くために、冬を前に自ら葉を落として生命活動を最低限に抑える休眠。秋から冬にかけて一定の低温にさらされ続けることにより、春が近づいていることを感知し(休眠打破)、生長段階に入る。春の気温上昇に伴い、開花へ向かってさらに生長するのだそうだ。花芽は、冬の厳しい寒さによってこそ、生長のスイッチによってさらなる生長を呼び起こすということ。誰もが自分自身のキャリアや仕事との向き合い方を考えるようになった時代である。自分の目標と、自分のスキル、そして自分の成果を見据えて、自分の「好き」を、自分の「花」を咲かせる時期を計画できる時代になった。だからこそ、その成長を、そして開花を助ける土壌(企業)でありたい。双方あいまってこそ満開の花を咲かせることができるのだと思う。