危険と安全
宇宙事業会社スペースワンの小型固体燃料ロケット「カイロス」初号機が13日、和歌山県のロケット発射場から打ち上げられたが直後に爆発した。カイロスは全長18メートル、重さ約23トンと軽量。固体燃料を使うことで発射までの準備期間を短縮し、2020年代中に年間20回もの打ち上げを予定しているロケットだ。そんなロケットの初号機が青空に散った。日本政府が、民間を含め、2030年代に30機のロケット打ち上げを目指していることもあり、今回の打ち上げ失敗は、少なからず今後に影響を与えるだろうと予測できる。管制手順の自動化や、機体が自動的に異常発生時の破壊指令を判断できる、など、打ち上げの省人化を実現し、高効率化を図ったロケットであるだけに、その打ち上げ成功には大きな意味がある。さらに、昨年の世界のロケット打ち上げ数が212回であるのに対し、日本の昨年ロケット打ち上げ数はわずか2回。民間はゼロ。国内における民間単独、初の人工衛星打ち上げが爆発に終わったことは、多くの関係者を落胆させたかもしれない。
今回のカイロス打ち上げ失敗は、残念だったが、「飛行中断措置」が機体本体から指令され、機体が爆破されたことは多いに評価されるべきだと感じる。素人目に見ても、発射直後の機体は、既に垂直状態が保たれていなかった。実際の原因が何だったのかについては、十分な調査をしていただくしかないが、人間が介入し「こんなことが起こるハズがない」と思うわずか数秒の指令遅れによって大惨事を招いたかもしれないと思うと、機体からの「飛行中断措置」は適切に機能したように思える。何百というセンサーが、人間以上の働きをする、ということの証明だ。本ロケットの打ち上げには、安全確保のために設定していた「海上警戒区域」内の船舶を区域外に移動させることによって発射延期を余儀なくされたという事実もあったようだ。しかし、結果的に1人の死傷者も出すことがなかったことは、今後のロケット打ち上げに対する「信頼性」を向上させたとも言えよう。
改めて「(機械)安全の原理」を考えずにはいられない。厚生労働省の発表によると令和4年度の労働災害における全産業の死傷者は132,355人。製造業では、その20%にあたる26,694人の人が労災被害にあっている。事故の型別でみると、機械等への「はさまれ・巻き込まれ」が最多で、全数に占める割合は死亡者数で40.0%、死傷者数で24.0%に上るという。多くの場合、製造業においては、「納期厳守」に大きな「信頼性」を置いているため、機械を停止させない。機械を停止させないために、機械が動いている状態のまま点検したり、故障を直したり、という作業をしていることがこのような事故を誘因しているとも考えられる。英語では、危険 (The Hazard)は 定冠詞[The]を着けて表される。危険とは、事故の予測を示す物理状態のことで、危険を認識するということは未来の事故を予測して、それを回避するための情報を獲得することである。従って、「安全」とは、この危険の認識に基づき、 その否定である「回避」の行為が行われることによって後から生ずるもの、という考え方なのである。そして、危険の「否定」による安全は、多様性を示す特性を持っているため、英語では、「the」をつけず、「Safety」とだけ表現される。はさまれ・巻き込まれのような危険がセンサーによって予測されれば機械は停止されるべきであろう。安全が確認できない、と思った人間は、自ら機械を停止する勇気を持つべきかもしれない。仕事は増えるが人的増加が見込めない今、「信頼」と「安全」を同等に確保していくためのテクノロジーの導入とコミュニケーションについて見直したい。一番安全な乗り物である飛行機でさえ、ヒューマンエラーを起こしてしまうほどの複雑さを抱えているのだから。