クレイモデル

テクノロジーの進化が注目される現代だが、車づくりの現場では今も「手」で引き継がれる技術がある。「クレイモデル」を造形するクレイモデラーの技だ。車のスタイリングは、いわば、自動車メーカーの企業イメージと言っても過言ではないので、クレイモデラーは、それこそ、企業イメージをデザインしているデザイナーであると言えるのかもしれない。しかし、実際に車をデザインするのは、カーデザイナーであり、クレイモデラーではない。一般的には、カーデザイナーは、2次元のアイデアスケッチを描くだけ。3次元にはなっておらず、この2次元平面のアイデアを3次元にするのがクレイモデラーだ。ふと「2次元のアニメスケッチには、矛盾が多すぎて、これを3次元に組み立てて、型を起こすのは並大抵の作業じゃないんですよ」と、昔、ガンプラ製作に関わった設計者の話を思い出した。クレイモデラーは、カーデザイナーのパートナーとして、デザインを立体的につくり上げる技能職。カーデザイナーは、クレイモデラーによって創造された3次元モデルを知り、車としての課題を読み取ってスケッチの精度を上げていく。デザインから、クレイモデル。また、デザインに戻ってさらにクレイモデルを造り上げる。この二人三脚のステップを何度も重ねることで、「車のデザイン」が造り上げられていく。

クレイモデルは、最終的に、フルスケールモデルまで造り上げられる。外見だけではなく、乗員数や着座位置、エンジンやトランスミッションなどの部品の配置をどのようにするか、室内空間を設計するという基本的な要件を詰めながらデザインを仕上げていく必要があるからだ。ボディ表面の曲率が正しいかどうかは、クレイ面に反射する光で視覚的に分かるというクレイモデラー。加えて、一般的な人間の指先の凹凸感知能力は、0.2mm程度らしいが、1/1000mmの違いを感じることができる熟練のクレイモデラーもいると聞く。実際にクレイモデルの反射する光は、製造した自動車に直接反映されるのだから、このクレイモデルの精度をいかに高く引き上げられるかどうかがクレイモデラーの腕にかかっているということである。

このようにして創造されてきたフルスケールクレイモデルは、計測してデータ化され、デジタルなCADモデルになっていく。3次元CADソフトは、自動車業界と共に大きな発展を遂げてきたといっても過言ではない。SOLIDWORKSは、残念ながらクレイモデルのようにくっつけたり、押し込んだり、削ったり、といった操作感でモデルを造形できる機能を有していない。が、近年、SOLIDWORKSブランドも、ブラウザーベースで稼働する「手」の感覚で操作可能なCADアプリケーションを開発し、世に送り出した。SOLIDWORSK愛好者の皆様には、不十分なアプリケーションかもしれないが、「意匠アイデア」をデジタルに創り出すためのお手軽ツール感覚で使っていただければ幸いである。クレイモデラーでさえ、クレイモデルを造る、という業務は、彼らの大量な業務のほんの一部でしかないそうだ。そして、今は、クレイモデラーとしての技術も、デジタルによってもっと加速され、効率化されることが期待されているらしい。もちろん、「手」でしかできない技、「手」の方が良い技は存在するし、永遠に価値がある。デジタルによるメリットと、「手」によるメリットを融合させることができることが、未来のクレイモデラーと言えよう。同じく「創る」ことに携わる設計者の皆さんにも、人の心を動かすモデルに挑戦していただきたい。

 

SOLIDWORKS

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