EVS

日常生活で気になる「目の疲れ」は、「老眼」の初期症状である場合もあるらしい。老眼とは、レンズの役目をしている「水晶体」が硬くなり、弾性力が低下して、近くを見るときに必要な“調節”ができなくなる状態。水晶体の老化は既に15歳頃から始まるらしいのだが、15歳では、自覚症状がなく、やがて資料を目から遠ざけて見るようになる頃に、「あぁ、老眼かぁ」と気付くのだそうだ。人間の目は時にカメラと比較されることが多い。瞳孔から目に入った光が「虹彩(こうさい)」で絞られ(調整され)、水晶体がレンズとなり、網膜に焦点を結ぶ。カメラはシャッターによって露光時間を制御できるが、人間の眼にはこの機能がない。カメラでは、撮影レンズの絞り値、露光時間(シャッター速度)とフィルムの感度という、基本的に3つの要素の組み合わせで露光量が調整される。言い換えれば、絞りによって調整できる露光量範囲、絞り値 Fが、10段階制御できるカメラは、210倍程度、このカメラが、シャッタースピード15段階制御できるとすると、210 X 215倍程度の露出光調整が可能であるということであり、フィルム感度をかけ合わせれば、ほぼ無限大の調整が可能なのである。人間の目もスゴイが、カメラという機械もまたスゴイのだ。

 

前述の通り、カメラの絞りに相当するのが、眼の虹彩(虹彩の開口部が瞳孔)の機能である。瞳孔は、日中の戸外など、明るい場所で直径 2 mm 程度、夜などの暗い場所で直径 8 mm 程度まで変化できるらしい。この直径で侵入してくる光が虹彩によって制御できる範囲は、瞳孔の直径比で 4 倍、面積比で 16 倍しかないことになる。16倍程度の制御能力しかない人間の目なので、映画館に入った直後、真っ暗で何も見えないし、映画館から明るい外へ出た瞬間は眩しくて、また何も見えなくなるのは当然のこと。カメラ(機械)の持つ無限大の露光量制御機能とは違うのである。ただ、暗くて見えなくても、明るくて見えなくても、ある程度時間が経つと見えるようになる。これが、人間に備わった機械ではない「細胞」の働きというから面白い。そして、この細胞には、錐体(すいたい)細胞と桿体(かんたい)という2種類があり別々に働くというのもまた興味深い。

 

前置きが長くなったのだが、「興味深い」という凡人の興味に留まらず、人間の「細胞」を模した「機械の目」として開発されたのが、EVS( イベントベースビジョンセンサー:https://www.sony-semicon.com/ja/technology/industry/evs.html)である。フレームベースセンサーが、フレームレートに⼀定の時間ごとに対象物と背景を含めた全画像を出⼒するのに対し、イベントベースビジョンセンサーは、動きのある対象物のみを⾮常に⾼時間分解能で捉えることができるのが特長。人の目が、輝度変化によって都合良く情報を処理する視細胞(桿体)を通じて、光シグナルを神経情報に変換し、脳の視覚野に情報を伝える機能を基に開発された技術なのである。凡人の考え方が誤っていなければ、フレームベースセンサーは、2次元のフレーム全体の情報を3次元(時間軸)に並べた情報であるのに対し、EVSは、元々3次元空間という巨大な空間から変化の起きた場所の情報だけを取り出すという技術。つまり欲しい情報だけを取り出す、というところが「高速」「高時間分解」を可能にしている。人間、多すぎる情報は処理しきれない。「何」を観たいと思うかという焦点が必要である。この技術を特徴づける適用分野として、金属加工モニタリング、振動モニタリングなどが紹介されている。製造業で生き抜くために伝承する技術こそ、伝えるべき焦点があること、そしてデジタルに伝承しておくことが必要であろう。

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