PLMとは
今さらPLM?と思われる読者もいるだろう。SOLIDWORKSは、設計者の手に代わる単なるCADなのだから。まぁ、そう言わずお付き合いいただければ幸いである。企業が世に生み出すほとんどの製品は、出荷後も様々な仕様変更が施される。恐らく、この作業は、製品生産が終了するまで永遠に続く作業であろう。ニーズの収集(設計要件)から仕様変更に至る一連の過程は、新製品を開発する過程でもあり、生産コストや保守コストなどを含めて、包括的に情報が管理されているからこそ、既存製品、新製品に関わらず開発効率が高まると言えよう。この考え方が、PLM Product Life Cycle Management (製品ライフサイクルマネジメント管理) 企画→設計→生産→販売→メンテナンス→廃棄 の一連の流れを管理すること、である。至極、合理的な考え方だ。
歴史的には、2次元の紙図面を電子化するソフトウェアから端を発しているらしい。「CAD」の登場で設計情報がデジタル化されるようになり、データ管理の必要性が生じ、さらに、3次元CADの出現により設計データの3次元化が進んだ。部品単品図と組図はもちろん、3Dモデルを含む設計データの活用は複雑化し、各部署別に所有する製品関連データ(部品コスト、材質、重量、加工法など)を一元的に管理したいというニーズが生まれるのは当然のこと。このニーズに応えたのが、「PDM(Product Data Management:製品データ管理)」ツールである。製品に関連するデジタルデータが一元管理されることにより、複数部門で同時進行中の最新データを参照しながら、設計が進められる環境が整ったわけだ。そして、これがPLMの原点である。PLMシステムを導入せずとも、SOLIDWORKSとPDMを導入している企業であれば、既にPLMのスタート地点に立っている、と言っても過言では無さそうである。
PLMを活用しているのは、製造業に限ったことではない。最近では、消費財/アパレル業界でも活用されているそうだ。企画→設計→生産→販売→メンテナンス→廃棄 のフローに合う産業であれば、活用は有効なのである。ただ、PLMに対する大きな疑問も存在するらしい。数千という仕入先を持つ企業が、常に、この数千という取引先と「唯一で、最新の情報」を元にして取引することは重要なのか。複数の素材メーカーとの数カ月に渡る要件定義が、1回/週の議事録をデータとして保存したところで、意思決定が早まるのか。日本国内に生産拠点を持たないアパレル企業の場合、リードタイムの短縮化は、PLMの導入とはほど遠い問題だろう。などなど、利益を最大化するための変数は、必ずしも、「製品の短期市場投入」「製造コストの削減」「長期間にわたる価値提供可能な製品の開発」ではない業界もある。PLMに大きな投資をしたところで、無用の長物ということなのかもしれない。
製造業ではどうなのか。PDMは導入済みで、いつでも準備OKの状態であったとして、将来に渡って企業の収益を最大化する目的を果すための環境になっているのだろうか。SOLIDWORKSが提供してきたPDMは、それまで、ファイルサーバーを使用してフォルダに保存されていただけの設計データを、整頓できる箱に整理して保存し、管理することを目的としたツールである。データの排他制御、承認プロセス機能のあるPDMは、設計部門にどれだけの生産性向上をもたらしただろう。ただ、市場に投入された後の製品に仕様変更が発生し、再生産が必要になった時、過去の設計情報はどのように活用され、設計変更の過程はどのようにフィードバックされたのか、その記録はあるのか?関連づけられたドキュメントは、設計データと共に管理されているのだろうか。SOLIDWORKSデータのリビジョンは、もちろんPDMで管理されているであろう。しかし、次の「価値提供」のためには、必ずSOLIDWORKSデータ以外の情報のトレーサビリティが必要である。部署ごとに異なる業務フローやプロセスを一意的に無理やり統一することに意味が無いことは経験済みだし、労多くして功少なしだったはずだ。一方で、企画→設計→生産→販売→メンテナンス→廃棄 に関わる全ての情報が一元的にリレーショナルに管理されるとしたら、部署別のフローやプロセスとは無関係に、企業の利益の最大化に貢献するとは言えないだろうか。真のPLMとは、システムを導入することではなく、企業のサステナビリティを考えることであるべきだと思う。