直交表
実験の回数を効率的に、かつ、最小限にするのが「直交表」である。
品質保証、製造現場、生産技術など、様々な部署において、問題を解決する、課題を達成するために「実験」という活動は避けて通れない。実験とは、様々な仮説があってそれを立証するための活動であり、様々な条件を設定して実行される。つまり、実験とは、条件の設定に依存する、といっても過言ではないのかもしれない。シミュレーションで、仮想実験を繰り返すことは物理的な実験と比較しても、時間、手間、無駄の点で、大きく利点を見出せる。一方で、目的を最大限にするためには何回の仮想実験を行なえば良いのか。そこまで考えたことはあったのだろうか。
まずは、製品に要求される性能を最大化させる「因子」と「水準」を割り付けることから始まる。因子とは、組み合わせたい要因のこと。水準とは、要因の中の選択肢である。ここでは、わかりやすいだろうと思われる因子や、水準を挙げており、「最大化」するゴールについても言及しないことはご理解いただきたい。おいしいお米を作るために、「水」「土」「光」という3つの因子と、水については「硬水」「軟水」、土については「粘土質」「砂質」、光については、「光が当たる」「光が当たらない」という2つづつの選択肢(水準)を割り当てるとする。実験回数は、23=8回になる。因子に、もう一つ、「肥料」などを加えれば、実験回数は、24=16回 、一気に倍もの実験をこなさなければならない。組み合わせの数は、指数関数的に増加していくのだ。さらに、1つの因子に、2つの水準では足りるわけがないだろう、ということになると、天文学的な数の実験をしなければならなくなる。よくあるのは、因子を変えずに水準だけをやたらと増やして、適切な水準を探すために実験を繰り返してしまうことだ。または、因子のほうが曖昧で、効果に対してあまり影響しないものを選択してしまったばかりに、無駄な実験を繰り返してしまうこともあるということである。
指定された荷重に最小質量で壊れない部品。設計とシミュレーションがあれば、物理的な実験回数を最小限に抑えることができる。設計(デザイン)が、品質(壊れないこと)を保証する効果的な方法だ。一方、時代は変わり、設計(デザイン)は、性能(品質の別な側面)をも早い段階から保証する義務を負う時代に突入している。特Aランクの評価をしてもらうためのお米の評価基準は、「味」「香り」「粘り」「硬さ」「外観」「総合評価」 の6つらしい。特Aの評価をもらうブランド米を作るためには、「水」「土」「光」では足りないのだろうか。「いや、お米の場合は、水準が多すぎるだろう」と考える読者もいるかもしれない。水準に試行錯誤を繰り返した結果、何年もの改良を経て、特Aの評価が下る。そして、翌年には、気候変動の影響で再び評価が変る。過酷なサバイバルゲームだ。現代の悩める設計者は、そもそも6つどころではないもっと多様なお客様ニーズ(評価)を満たすために、因子を追求しているのか、幅広い水準を満たそうとしているのか。製品の評価を決める「因子」と「水準」はどこにあるのだろうか。目の前の設計に対し、自分の持つ直交表を見直してみてはどうだろう。