ラティス構造
New Balance(ニューバランス:米国)が、3Dプリントを応用した初のランニングシューズの販売を開始したのが2016年。TPU(熱可塑性ポリウレタン)をSLS(Selective Laser Sintering:粉末焼結積層造形)方式で3Dプリントしたミッドソールを使用したランニングシューズだった。わずか44足しか製造されていない。「44」は、こだわりの数字であり、44足しか作れなかった、ということではないらしいが、当時のプリンター技術では、まだ、「量産」に踏み込むことはできなかったのかと憶測できる。しかし、この第1号ともいうべき製品の販売後、フットウェアにおける3Dプリント製品は続々と市場に投入され、今や万単位の量産を目標にできるまで、3Dプリンターの性能が向上し、適用できる材料も一気に多様化した。米国の市場調査会社SmarTech Analysis社 の調査によると、3Dプリント技術を利用したフットウェア製品の収益は、2029年までの年平均成長率(CAGR)19.5%で成長し続け、年間65億ドル(約7,227億円)以上の収益を生み出すらしい。ユーザーの身体的情報を取得することで、パーフェクトなフィット感を生み出せる3Dプリントによって、フットウェアにおけるビジネスチャンスは益々広がりを見せている。
そんな中、満を持して、国内メーカーが、この7月に3Dプリンタトサンダルの販売を開始した。今年7月、アメリカ・オレゴンで開催された世界陸上競技選手権大会に合わせて発表され、出場した参加選手らに提供することで、話題にもなった。同社の国内直営店が提供している、足の3D計測データを基にスニーカータイプのサンダルを製造するサービスは、東京オリンピックの五輪選手村でも提供され、好評を得たらしい。今年販売開始された3Dプリントサンダルは、発表の数日後、オンラインサイトで販売が開始され、即日完売したそうだ。さすが、「人間特性に関する研究」「材料に関する研究」「構造に関する研究」に注力するアシックス(日本:本社 神戸市中央区)のなせる「技」か。他社メーカーがランニングシューズのソールに、3Dプリント製品を導入しているのに対し、アスリートの運動動作をとことん分析し続けるアシックスのディスタラクティブ(破壊的)なイノベーションの1つだと言えるかもしれない。
3Dプリント製造の強みを活かす「構造」の1つに、格子(ラティス)構造がある。他社メーカーの3Dプリントしたソールが、仮に10程度の変化のあるラティス構造だとしたら、アシックスの発表したサンダルは、恐らくその5倍は細かく不均質に連続した格子の組み合わせでできていそうである。まさに、デジタル設計と3Dプリント活用の最適化への挑戦。何十いや何百通りものパラメトリック(変数)制御の組み合わせによって、何万通りもの可能性を導き出すデジタル設計、と、導き出された形状をカタチにできる3Dプリンター。そして、このアイデアを発想できたのは、人間の動作に関する膨大なデータを蓄積してきたこと、そのデータを分析すること、データから情報を読み取り次の「機能」を商品開発へとつなげる。まさに、アシックスという企業の強みそのものである。彼らの目指す最適化は止まること知らない。