使いやすい3D CAD
何の気なしに「使いやすい 3D CAD」とワードを入力して、Google先生に検索をお願いした。2022年の今、「使いやすい」は、もう市場では3次元CADの検索ワードではなさそうである。検索結果は、「おすすめ」「人気ランキング」「無料で」。3つの単語と「3D CAD」を組み合わせたタイトルで埋め尽くされた。「SOLIDWORKS」などというCADの名称さえない。ツールを「使いやすさ」で選ぶ時代ではないのだと思い知る。「使いやすい」とか「簡単」といった実感は、ご使用いただくお客様の評価であって、売る側の押し売りトークから生まれるものではない。お客様は、市場で良いと言われている、口コミが多い(人気がありそう)、コスパ最高、のような、どちらかというと、多くの意見を参考にしてモノを探し、最終的には、いわゆるエクスペリエンスを期待しているのだろうと感じる。そして情報があっちこっちに雑多に散らばっているため収集する能力に欠けると、自分の欲しいモノも探せない時代になったということでもありそうだ。
四角いお弁当箱。蓋を取った底側だけのカタチを思い描いて欲しい。上から見たその形状は、2次元に投影された線を描くことで表現できる。4つの直線に囲まれた外郭の長方形。カドには、丸く、フィレットを付ける。材料(アルミ?プラスチック?)の厚さぶんだけ、内側に同じ直線とフォレットをつければ、完了。製造図面ではないが、2次元図面はできあがる。一方、3D CADは、3次元の形状を作らなければならない。平面(例えば、底面からみた平面)上に4つの直線に囲まれた長方形を作り、これを3次元方向(例えば、底面に対して直角方向)に押し出し、直方体をつくる。不要な材料を抜き取る感じで、シェル化し(材料厚さぶんだけ残す)、最後に、4つのカドに3次元のフィレットをつける。3次元モデルは、図面ではない。この3次元モデルから、「図面作成」というコマンドを使って図面を作成するのだ。なんと面倒くさい。線だけ描けば良かった2D CADと比較して誰が「使いやすい」と思っただろう。しかし、この面倒だった作業が、時を経て、「3次元モデル」を中心に据えた製造プロセスの変革をもたらした。
2D CADと3DCADの圧倒的な違いは何だったか。体積、重心位置、慣性モーメントなどの材料特性を自動的に計算してくれる、というシンプルで誰にでもメリットのあることだった。今では、シミュレーション技術と結び付けてより堅牢な製品設計が期待でき、製造性までも事前に検証して、製造もしていない製品をまるで実物かのようにお客様に見せることもできる。この製造プロセスの変化に資源(ヒト・モノ・カネ)を投入した結果としてどれだけの成果が得られてきたのか。ムリ・ムラ・ムダのある業務内容をどれだけ改善してきたのか。今後は、生産性や業務効率化に代わって、エネルギー消費に関わる問題、二酸化炭素の排出問題、再生材料の投入、持続可能な社会に向けた取り組みが益々評価される。30年前には、パソコンもスマホもなかったのに、2020年の今、何もかもあってとても便利な時代になった。つくる側の責任として、つくる製品は、誰の手に渡って欲しいのかを考える必要がでてきた。2050年はあっという間に来てしまいそうである。