施設から自宅へ

米国では、COVID-19が猛威を振るうこの2年間で、患者側の明白な感情の変化をとらえているらしい。

「病院へ行くより、自宅ケアのほうが良い」という気持ちの顕在化である。

2021年2月、米国の遠隔医療使用は、パンデミック前レベルの38倍にもなったらしい。この傾向に関する将来はまだ明確ではないとしながらも、ある一定のニーズに対応する機会があることを示している。そして、調査対象となった患者の約40%が、今後も遠隔医療を利用し続けることを期待していると述べている。さらに、米国における団塊の世代が今後、長く遠隔医療を期待するだろう、とも予測されており、病院へ行かなくても治療が受けられること、が選択枝になり得る時代が急速に近づいてきたようである。米国保健社会福祉省の昨年末のレポートによると、遠隔医療を通じて実施された2020年のメディケア訪問は、2019年の60強倍、約5270万件にもなるそうで、日本の10数万件と比べてケタ違い(総務省:令和3年度白書より)。日本における患者(消費者)の選択肢は、まだまだ先の話なのか。

テクノロジーが遠隔医療を支える側面は見逃せない。日本では、個人のヘルスケアのために使用されていることが多いウェアラブルデバイス。米国では、既に2018年、Apple Watchの心電図アプリがFDA(アメリカ食品医薬品局:Food and Drug Administration)の認可を取得し、2020年には、PMDA(独立行政法人 医薬品医療機器総合機構(日本):Pharmaceuticals and Medical Devices Agency) からも医療機器としての承認を取得している。国内企業も、もちろんこれに追随し、デバイス、ウェアラブルデバイスまたはアプリという方法で、サービスの提供を開始している。市場の3分の1を超えるウェアラブルデバイスは、既に何らかの認証を受けているらしい。つまり、データを着実に蓄積していく土壌は既に存在する。加えて、海外では、AI搭載の顔認証、言語処理、遠隔操作可能で、遠隔地の患者の観察や診療するロボット、リハビリ等を行えるロボット、採血するロボットに、衣料品や検査キットを輸送するドローンと、デジタル技術の活用が見覚ましい。さらに、Patient centricity(患者参画)による医薬品開発など、医療現場は大きく変化している。

こういうことをDX、デジタルトランスフォーメーション、デジタル技術による(生活やビジネスの)変革、と呼ぶのだろう。施設(病院)に行ってしか治療が受けられなかった社会を、デジタル技術によって、自宅にいながらでも治療が受けられる新しい社会が創造されようとしているのだ。2004年にエリック・ストルターマン教授によって提唱された、このDX。上述のように「デジタル技術による(生活やビジネス)変革」という定義が引用されている場合が多い。が、これは「概念」なのだろう、と思う。製造業は、要件(定義)を提示されて、その要件を満たす最適解を見つけ出すことに知恵を絞ってきた。「要件」は、何度も丁寧に確認され定義され、要件にあった製品を納期内に製造して納品することがゴールだった。しかし、このDXには、「定義された」明確なゴールが存在しない。施設から自宅へ。それは患者側の移動手段の開発でもあり、反対側から見れば、施設側設備の自宅への移動、という視点もあり、1人1人異なる患者への医薬品の提供という視点もある、ということである。柔軟な思考が問われている。

 

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