光超音波装置
昨年12月、「光超音波イメージング装置の薬事承認申請が、医薬品医療機器総合機構(PMDA)に受理された」とするある企業の発表があった。造影剤の投与も必要なく、無被ばくで簡単に血管の3Dイメージング画像ができあがる装置の誕生である。
この装置が使用可能になることで、血管やリンパ管の形と機能情報を得ることができるため、病気の発症から治癒プロセス、または病前・病後の健康状態を総合的にとらえることができるらしい。CT(X線コンピュータ断層撮影)、MRI(核磁気共鳴画像)などと比較して、人間の体により安全であることがなんとも嬉しい。まさしく「革新的」という言葉のあてはまる製品である。本技術の開発は、2006年から始まっていたそうで、企業、大学、官庁の協力と、最終的にはベンチャー設立によって「研究成果」というカタチではなく、「製品」として世に出ることになったそうだ(https://www.luxonus.jp/より)。関係各位の熱い思いを感じる。CTやMRIなどの革新技術が生まれたのは1970年代だった。これらの技術がここまで一般的になるのに数十年かかっていることが気にかかる。この日本で誕生したすばらしい技術を根付かせるためには、この技術をみんなで使って育てること。何かお役に立てないものかと思う。
人間の生体組織は均質ではなく、多くの種類の細胞や多成分の物質で構成されているため、構成している物質の吸収係数、散乱係数、屈折率などから生体組織の光学的特性を決めることが可能らしい。この光超音波装置は、その中でも「赤血球」などの血管の中を流れる吸収体にレーザー光を照射し、吸収体の膨張や収縮で発生する超音波をひろって、対象物を画像化する技術らしい。本装置の特長は、レーザー射出部と超音波センサー部の両方が一体で稼働し、体内の様子を3次元画像にすることにある。この技術を使えば、体内どこでも、何でも3次元で見えるのではないかと思うのは筆者だけだろうか。実際に画像化されたスケスケの手の中に映し出された血管が本物であるとすれば、おのずと病気の治癒方法も明確になることは間違いない。いや、バーチャルツインの技術と重ねれば、今度はとんでもない「治癒技術」や「治癒道具?」が生まれるかもしれない。
もともと光超音波イメージング技術は、キヤノンが開発してきた技術であったらしい(https://www.luxonus.jp/より) 。その開発責任者であった技術者は、内閣府の「革新的研究開発推進プログラム(ImPACT)」の「イノベーティブな可視化技術による新成長産業の創出」というプログラムに参画している。このプログラムには、実は2つの目的があった。1つは、生体を傷つけることなく血管と血液状態をイメージングすることで,病気の超早期発見や予防医療の実現に加えて美容や健康管理に役立てること。この目的の上に開発され製品化されたのが上述の「光超音波装置」である。ではもう1つの目的は何だったのか。もう1つの目的は、製品や工業材料の内部の劣化や、き裂などをイメージングし検査精度をより一層向上させることで、製品の品質向上に役立て日本製品の競争力の強化に寄与することだった。非破壊検査におけるイメージングまで可能な「革新的な製品」は生まれるはずだったのではないのだろうか。「研究成果」に終わってしまったのか。