中小企業の「弾力性」
ファイザー社製新型コロナウイルスワクチンの1瓶の原液量は0.45mLらしい。これに、1.8mLの生理食塩水をたして、2.25mLの量にする。1回の接種で1人に投与するワクチンは0.3mLであるため、 計算上7回は採取できるはず。ところが、厚生労働省は、国内では、5回分しか採取できないことを認めている。なぜか?
これは使用する「注射器」が原因らしい。一般的な注射器は、構造上、薬液の一部が先端部に残ってしまう。先端に残った薬液は、押し込んでも出てこない。0.3mLを投与するために必要な余剰薬液を注射器に補充しておかないと、0.3mLは投与できないのである。つまり、日本では、ワクチン1瓶から、5回分しか採取できないのだ。
一般的な注射器とは、血管、筋肉など注射する部位、と、採血用、注射用などの用途、によって、様々な針と注射器を組み合わせて使用されているそうである。従って、針と注射器の接続部分に薬液が残ってしまうのは仕方のないことらしい。一方、針と注射器が一体型になっていて、ほとんど薬液が残らない注射器は存在し、この注射器を使えば、ファイザー社製のコロナワクチン1瓶から6回分のワクチンは採取できるのである。であれば簡単、国内の注射器製造メーカーからいち早く調達すれば良いではないか、と思うのだが、そういう簡単な話ではないらしい。今回の新型コロナウイルスワクチンの接種は、筋肉部位への注射用注射器を使用する必要があり、注射針は、25mmが必要とされているからである。日本では、針と注射器の一体型注射器は、多くが皮下注射用で針の長さは最も長いものであっても13mmしかないそうだ。つまり、「即座に対応するのは難しい」という状況だった、ということである。筋肉注射用の長い針を含めて対応できるメーカーは、日本ではごく少数。今年、2月の話である。
昨年は、あっちもこっちも「マスクの生産開始」で、盛り上がった。さすが、製造大国日本!どんな時にも、小回りの利く製造業が日本を支えている、と思った。しかし、今年は少し様子が違いそうである。中小メーカーは経験のない製品を新たに開発する必要があるにも関わらず、新たに薬事承認を得た上で生産設備を整えなければならない、という状況があり、明るいニュースが出てこない。
注射器、針メーカーに至っては、「金型を起こすだけでも数カ月かかる」とため息を漏らす状況のようだ。人間の命を守る「注射器」や「針」だからこそ、Made in JAPANの品質にはこだわりたい。ただ、こういう時だからこそ、互いの知見を出し合い、共同作業によって、6か月かかる事業を3か月で成し遂げる、というチャレンジ精神、イノベーション魂が欲しい。お隣、韓国では、従業員120人の中小企業が、長年の経験のもとに「柔軟」に対応した成果を出しているのだから。