科学的根拠
見えないものを見える化する技術。新型コロナウィルス感染拡大防止のために使用制限されていたハンドドライヤーの使用制限の緩和に貢献したのは、シミュレーション技術、科学的根拠、であった。今、まさに「証拠」に基づいた対策が叫ばれている。海外では、制限されるどころか感染対策で使用を推奨するケースもあったのに、日本だけが異なる対応になっていたらしい。餅は餅屋。製品を製造した側が、ウィルス拡散を否定する証拠を提示することのほうが、より現実的な「新たな日常」を創る、と言っているように聞こえた。
意外にも、ハンドドライヤーの日本における普及は遅かった。なぜなら、日本人には、ハンカチで手を拭くという文化があるからだ。普及こそ遅かったが、米国などでは当時主流だった、その名の通り、温風で乾かす「ドライヤー」に一線を引き、「高速で水滴を飛ばす」というテクノロジーを付加したことで、今や日本製のハンドドライヤーは世界で市民権を得るまでの製品になっている。ハンドドライヤーに求められるのは、「乾かす機能」と「衛生的であること」の2つ。ハンカチで手を拭く文化圏と、ハンンカチで手を拭かない文化圏から求められる要求は当然のごとく異なっており、前者は「どれだけ衛生的であるか」、後者は、「どれだけ早く乾かせるのか」、優先度が違う。加えて災害が発生すれば、「節電」のスローガンの元に使用制限され、病院では「うるさい」と敬遠され、狭いスペースでも設置できるものはないのかと要求され、製品の改善にどれだけ努力してきたのか想像に難くない。そして、「衛生」を求めるのは、ハンカチで手を拭く文化を持つ、とりわけ「日本」である。世界初のテクノロジーを取り入れた日本初の「ハンドドライヤー」が誕生して、すでに30年が経過しようとしている。「衛生」に対しても、先んじて情報を持っていたはずである。
30有余年も改善し開発してきた製品。日本の製造業企業なら、1つや2つ(いや3つか?)は持っているに違いない。そして、その製品を支えてきた技術の科学的根拠を持っている、と想像する。それがシミュレーション技術であればなおさら良いであろう。ご周知の通り、見えないものを可視化する技術もまた60年以上の歴史を持っている。今や、テクノロジーの発展によって、プロトタイプとその試験データ、3次元モデルとシミュレーション結果を融合した、バーチャルツインが構築されつつある。過去のものでも、未来のものでも、「具現化できる/できない」全ての要素を誰が見ても理解できるカタチにしてくれるテクノロジーだ。「速乾性」も、「衛生」も、科学的根拠から生まれた「要素」であると推測される。企業自らが、「新たな日常」を取り戻すためには、自社の強みを「科学的根拠」から証明するのが近道であろう。そしてそれは、製造業企業にこそ多くのアドバンテージがあるに違いない。