MBD 導入における 10 の注意点 – 関係者全員の参加を促す

これまでのブログでは、表 1 の「躊躇しない」(Part 1Part 2)や「導入推進チームを設置する」を取り上げてきました。そうした導入推進チームのほとんどが、参加者の意識をどう高めるか、特にチームメンバー以外のモチベーションをどう引き出すか、という疑問に直面します。今回はその答えをいくつかご紹介しましょう。

2 次元図面から MBD に移行する際には、多種多様な抵抗を受けることになります。これはスタートアップ企業と同じです。ストレスや不満がつきものなので、初期メンバーでさえ途中離脱することがありますし、課題や不満が非難や責任追及へと発展すれば、モラルの低下を招くとともに、エネルギーを無駄に消耗してしまいます。だからこそ、周囲の参加意識を高めて「1+1 を 2 以上」にする方法が重要なポイントとなるのです。マイナスに向かわせてはいけません。

モチベーションと言うと金銭的なインセンティブと結び付けるのが一般的です。しかし、『ニューヨーク・タイムズ』や『ウォール・ストリート・ジャーナル』のベストセラーとなった『モチベーション 3.0』(ダニエル・ピンク著、大前研一訳、講談社、2010年)の中で、ダニエル・ピンク氏は非金銭的な要因の重要性を訴えています。熟達(Mastery)、自律性(Autonomy)、目的(Purpose)という 3 要因(MAP)です。

• 熟達: 何か意義のあることを一層上達させたいという欲求。
• 自律性: 人生の方向を自分で決めたいという欲求。
• 目的: 自分よりも大きな存在のために活動したいという欲求。

MBD プロジェクトに取り入れる場合には、共通の目標を設定する、MBD のメリットを押し出す、各自の裁量に任せて新しい発想を促す、定期的に進捗をまとめる、MBD のデザインコンペを開催する、卓越した貢献を表彰する、優秀なチームや個人に報奨を授与するなど、さまざまな方法が考えられます。

特に「目的」はモチベーションの最大の源となるため、もう少し詳しく説明しておきましょう。NexTec のパートナー兼ビジネス変革リーダーである James DeLaPorte 氏の問題提起は、色々と考えさせてくれます。

• 現在やっているが、将来やっていくつもりがないことは何?
• 将来やっていくつもりだが、現在やっていないことは何?
(情報元: 『Model Based Enterprise Impact on Organizational Behavior (仮訳: モデルベース企業が組織行動に与える影響)』、James DeLaPorte 氏、2011 年)

この 2 つの質問の狙いは、組織やメンバーに長期的なビジョンと現時点のギャップを気付かせることです。参加者にこれを意識してもらうことで、MBD の正当性が明確になり、変化や困難も長期的に成功するための代償と捉えて、積極的に立ち向かってくれるはずです。

ここからは、逆の見方をしてみましょう。安全地帯の外に踏み出せば、課題や不満は当然生じますが、それは同時に活力や競争力を取り戻すチャンスにもなります。テスラモーターズの創業当初、目新しいモノを作るというだけで、つまり電気自動車を開発する上で、一見平凡なあらゆる作業が困難を極めました。電池パックはどこに配置するか。重すぎたら、大きすぎたら、熱すぎたらどうするのか。ドライブトレインは AC Propulsion からライセンスを受けたにもかかわらず、想定通りの速度が出ず、加速要件にも信頼性要件にも適合しませんでした。

テスラは根本的な前提条件の再検討を重ね、何度もゼロから再出発しなければなりませんでした。もうお分かりでしょうか。偉大なイノベーションや競争力とは、こういうところから生まれるのです。現在、テスラの自動車が他の追随を許さない数々の独自性や優位性を備えているのも、途方もない難題に直面しながら、革新的なソリューションを何とか編み出してきたおかげです。

そういえば、テスラの製品発表を見ていると、「こういうやり方が人類を前進させるんだ!」と思わず呟いてしまいます。人生の時間は限られていますが、日常生活は同じことの繰り返しになりがちです。死ぬまでに特別なことをしたい、世の中に前向きな変化を起こしたい、子供や孫に誇れるようなものを作りたい。そう思ったことはないでしょうか。私が MBD に取り組んでいる動機はこれです。そのために、日曜の午後だというのに、すやすやと眠る 7 ヵ月の娘を横目にブログの駄文を綴っています。将来、大人になった娘は 2 次元の図面ではなく 3 次元の製品仕様書や指示書を使っていることでしょう。


もう一つのポイントとして、導入推進チームのモチベーションを引き出すだけでなく、すべての関係者、特に生産部門の参加を促すことが不可欠です。反対論者と議論してもあまり解決にはなりません。もっと建設的に向き合うには、具体的な反対意見をじっくりと聞き取ってみることです。誤解が判明するかもしれませんし、チームの連携によって取り除ける障壁もあるかもしれません。例えば、GE パワー & ウォーターは抵抗感を和らげるために移行期の「疑似図面」を考案しました。

次回の「設計部門のみにとどめない」では、設計部門から生産部門まで範囲を広げる方法について掘り下げます。SOLIDWORKS MBD についての詳細は SOLIDWORKS MBD 製品ページをご確認ください。また、Twitter (@OboeWu)あるいは LinkedIn (OboeWu)でのディスカッションにもご参加ください。

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吉田 聡

吉田 聡

マーケティング部 ポートフォリオ イントロダクション スペシャリスト