実証された MBD バリューマトリクス

2008年以降、 SOLIDWORKS では、モデルベースの定義 (MBD:Model Based Definition) といった業界の動向や、ASME Y14.41-2003 (2012年更新) やMilitary Standard-31000 (2013 revision-A) といった規格・標準を率先して支援してきました。設計意図や製造のための詳細情報を伝えるために依然として使用される紙の書類は、コストもかかる上にミスも誘発しがちなため、これを削減していこうというのがMBDのねらいです。振り返ると、コンピューター支援設計 (CAD) 導入からほぼ40年が経過した今でも、私たちは未だに紙の図面に頼って仕事しています。また、MBDの目的の1つに正確な製造オペレーションに必要な公差情報から品質管理ロボット(CMM:座標測定機)を操作するための指示情報まで、設計における詳細な情報をロボットで読み込み可能にするということが挙げられます。

MBD201608

図 1: シャフトの3D PMI(製造情報)の定義
SOLIDWORKS WORLD 2016 MBD ラウンド・テーブルで、GE Lighting (現在のCurrent, powered by GE) のGlenn Kuenzler 氏は2次元図面とMBD手法の時間・コストを比較した表が欲しいと言われました。これはGlenn氏だけではありません。どうやらMBD が2次元図面よりも直感的で明瞭らしい、ということは理解していても、具体的なメリットがいまひとつ見えてこないというのが現実です。設計者コミュニティはこのパラダイム転換を正当化し、疑念を抱いている他者を説得するための確かな指標を探しています。米国標準技術局 (NIST) により実施された、独立した、客観的な研究、『Testing the Digital Thread in Support of Model-Based Manufacturing and Inspection(仮訳:モデルベース製造と検査を裏付けるデジタル・スレッド試験)』により、この分野の研究は確実に進展しました。今回のブログ記事ではNIST研究がまとめた非常に興味深い考察をいくつか共有いたします。
NIST はRockwell Collins を始めとする産業界のパートナーと協力して、3つの実践的なテストケースを選択しました (図 2, 3, 4)。 各テストケースは生産の主要な3ステップの時間を測定します。:
1. 設計定義への注釈付け
2. 加工
3. 検査

MBD201608-2

図 2: テストケース1:フライス加工オペレーションが必要な四角い中空ハウジング

MBD201608-3

図 3: テストケース2: フライス加工、旋盤加工が必要な円筒ベアリングシール

MBD201608-4

オペレーション
図 4: テストケース3: フライス加工オペレーションが必要な連結部
以下に所見を記述します:
• モデルベース手法では注釈、加工、検査にかかる時間が65% (テストケース 3)から80% (テストケース1) 削減されました。表 1 に数値詳細を記載します。

MBD201608-5

• 純粋な測定時間以外でも、モデルベースのサプライヤーが約5週間で部品を納品するのに対し、図面ベースのサプライヤーは納品に約8週間かかっています。図面ベースのサプライヤから図面の製品定義について12の質問がありました。質問の回答が提供されるまで作業は中断されます。対照的に、モデル・ベースのサプライヤーからは製造、検査中1つの質問もありませんでした。
• 図面情報の理解の齟齬はまた、図5のような設計意図とは異なる貫通孔の作成、品質問題の原因ともなります。この場合部品全体を破棄しなければなりませんでした。MBD手法はモデルを正とすることでこのような事態を防ぎます。右図の図面ベースのシール溝が図2の設計と一致してないのに気づかれたかもしれません。大きな問題ではないですが、ここでも図面ベースの手法による食い違いが発生しています。

MBD201608-6

図5:テストケース1で納品された部品の比較―図面ベースの部品では設計意図とは異なる貫通孔を追加
• テストケース1の注釈付けでは、エンジニアは2次元の操作は完全に熟知している一方、インテリジェントな3D PMI (マシンで読込が可能) の定義方法を新しく覚える必要があったため、図面よりMBDのほうが多くの時間を要しています。
• 一旦やり方を覚えた後に実施したテストケース2、テストケース3ではMBDの注釈付けのほうが2次元図面より若干早く完了しています。
MBD 手法がなぜここまで早いか不思議に思われるかもしれません。NIST の論文はその理由を詳細に記述しています。手短に言うと、3D寸法と公差が機械で読み込めるため、CAMやCMMに読み込め、数値コード (NC) プログラミングが自動化できます。
MBD 導入ブログ では機械で読み込める3D寸法、公差について説明しています。 このブログの第2部 では SOLDIWORKS MBD の3D 注釈を読み込み、加工や検査を自動化するCAMWorks、CheckMate といった統合SOLIDWORKS パートナー製品について記載しています。
Glenn 氏はこのMBD パラダイム転換をよりわかりやすくまとめています。コンピューターを使い始めたとき、タイピングを覚えるのは大変でした。各キーの場所をいちいち覚え、2本の人差し指でキーボードをにらみながら自己流のタイピングをするかわりに、5指を使ってタイピングできるようになるまでには時間がかかりました。もちろん今では、5指を使って素早くタイピングできるようになり、苦労して違うやり方を学んだ成果を十二分に享受しています。同じことがMBDにも言えるのです。最初の注記付けではそれほど大きな時間短縮は確認されませんでしたが、これは単なる準備期間、生産という交響曲の前奏にすぎません。MBDの真価が発揮されるのはCAMやCMM、公差解析、見積もり、工程計画といった下流工程の自動化にあります。どのようにしてSOLIDWORKS MBD で機械で読み込み可能なPMIを定義できるかについての詳細は 製品ページをご覧ください。

吉田 聡

吉田 聡

マーケティング部 ポートフォリオ イントロダクション スペシャリスト