MBD 導入における 10 の注意点: サプライチェーンへの送付データを 3D PDF のみに統一しない

3D PDF は、無償の Adobe Reader の普及と相まって、爆発的に人気を伸ばしつつあります(3D PDF コンソーシアム(英語)によると、2014 年現在、ネット接続できるコンピュータの 95% が Adobe Reader をインストール済み)。3 次元コンテンツが Adobe Reader に埋め込まれていると、手軽に表示して直感的に理解できるため、異なるプラットフォーム間で 3 次元データを交換する際のハードルが一気に下がります。メーカーの中には、3D PDF をすっかり気に入り、3 次元 CAD モデルと 2 次元図面を全面的に 3D PDF に切り替えた例もあるほどです。ただ、これは将来的には効果を発揮するかもしれませんが、現時点では総じて時期尚早と言わざるをえません。大きな痛手を被った挙句、3D PDF の受け取りすら拒絶するようになったサプライヤーも少なくないのです。その理由を見てみましょう。

表 1: MBD 導入における 10 の注意点

1. 後工程の製造アプリケーションは、今のところ 3D PDF を直接読み込めない。例えば、CAM ソフトウェアは 3D PDF の 3 次元モデルや PMI を読み込んだり、そこからプログラムを自動生成することはできません。その場合、機械工場が 3D PDF を基に手作業で CAD モデルを再構築し、STEP ファイルをエクスポートした上で、CAM に入力しなければなりません。そうしたサプライヤーでは、サイクルタイムとコストの増大だけでなく、モデルの再構築による人為的ミスも発生してしまいました。3D PDF に嫌気が差したのも無理はありません。CMM、3 次元スキャン、コンピュータ支援工程計画(CAPP)でも同じです。3D PDF の技術は急速に進化しており、上記のアプリケーションも 3D PDF のサポートを急ピッチで強化しているものの、今現在に関しては、3D PDF と一緒に CAD モデルや STEP ファイルも送った方がコスト効率が上がります。

2. 状況次第では便利な 3D PDF も、結局は派生物なので、CAD モデルの代わりに設計の原本とするわけにはいかない。データの完全性や整合性を保持する最良の手段は、サプライヤーに CAD のネイティブ形式を受け入れてもらうことです。一部の SOLIDWORKS ユーザーは、サプライヤーにも SOLIDWORKS を導入してもらうことで、受け渡しの簡易化を図っています。派生物の妥当性確認や各種の 3D PDF 技術(U3D、PRC など)については今後のブログで詳しく説明しますので、差し当たりは、CAD モデルと 3D PDF が食い違っていたら CAD を正とするとだけ覚えておいてください。派生物である 3D PDF だけでなく、CAD モデルも一緒に引き渡した方が安全です。CAD モデルを唯一の正しい情報源とする共通認識を持ちましょう。

3. 移行期の情報交換は、不足するよりも過剰なくらいがよい。変化とは難しいものです。一度に一歩ずつ進んでください。社内で 3 次元の寸法や公差を定義しているのであれば、すでに確かな一歩を踏み出せています。次は外部との協業ですが、サプライチェーンが慣れ親しんできたものを突然全部やめさせて、3D PDF だけに切り替えたりしてはいけません。むしろ、CAD モデル、STEP ファイル、場合によっては 2 次元図面(3 次元 PMI で簡単に生成可能)など、通常のドキュメントの提供を続けるようにしましょう。そこに 3D PDF を加えることで、視覚的かつ直感的な理解を助けてくれます。そして、3 次元プロセスに少しずつ慣れていき、全員が 3D PDF の適切な使い方をしっかり把握したときこそ、2 次元図面のような必要性の低いドキュメントを廃止する時期ではないでしょうか。サプライヤーは千差万別であり、移行のスピードもそれぞれ異なるため、ここでもやはり「相手を知る」ことが大切です。

ここで、すべての必要なファイルをまとめて送付する方法をお伝えしておきましょう。別の記事が Adobe Reader で複数のファイルを一つの PDF パッケージにまとめる工夫(英語)を紹介しています。そう、無償の Adobe Reader だけで十分なのです。PDF へのファイル添付に Adobe Acrobat は必要ありません。さらに、ウォーターズコーポレーションの Tim 氏も実践している便利な小技があります。下図のように、3D PDF を独自のレイアウトにカスタマイズすることで、CAD ファイル添付用のセクションを呼び出せるようになります。

本当は、3D PDF が何でもやってくれると言いたいところですが、業界はそのレベルに到達していません。今後も技術の進展を注視しながら、最新情報をお伝えしていきます。差し当たりは、サプライチェーンの時間と費用を節約するためにも、混乱を避けるためにも、3D PDF と通常のファイルを一括送付する方が無難でしょう。次回は「インフラストラクチャーを更新する」です。これもまたデリケートな話題かもしません。インフラ整備は巨額の投資と思われがちですが、新しいハードウェアやソフトウェアが開発されている今日、コスト効率良くインフラを更新する方法について解説します。SOLIDWORKS MBD についての詳細は SOLIDWORKS MBD 製品ページをご確認ください。また、Twitter (@OboeWu)あるいはでのディスカッションにもご参加ください。

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吉田 聡

吉田 聡

マーケティング部 ポートフォリオ イントロダクション スペシャリスト